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欲望という名の電車のTakaCineのレビュー・感想・評価

欲望という名の電車(1951年製作の映画)
4.3
"才能と意地のぶつかり合い"で完成した不朽の名作であり衝撃作。

制作陣のほとばしる熱意、物語の抑圧された特に性的衝動の重さ、ニューオーリンズという南部特有の風土が画面に焼き付いて、胸焼けするほどの息苦しさ!

それでも観たくなるのは、超一流の映画人が真っ向から挑んで作り上げた力業に、観る度に心を鷲掴みにされるからです。

ただあまりにも演劇的要素が強いので、苦手な方もいるかもしれませんね。

100本目のレビューとして、大好きな女優ヴィヴィアン・リーが女優魂を見せつけた本作を挙げたいと思います。

古い作品ですが、彼女の素晴らしい才能が堪能でき、且つアメリカのリアリズム演劇の映画化としても重要な作品です(*^^*)

【欲望という名の電車】
A Streetcar Named Desire
名前からしてイカシテマス(^o^)♪

1951年公開当時から評価が高かったです。

第24回アカデミー賞12部門ノミネート。主演女優賞(ヴィヴィアン・リー)、助演男優賞(カール・マルデン)、助演女優賞(キム・ハンター)、美術監督・装飾賞(白黒)を受賞。

この映画は数々の伝説的な才能から成り立っています。

【センセーショナルな戯曲の映画化】
「ガラスの動物園」、「熱いトタン屋根の猫」など人間の恥部を深く抉るような有名作が多い、20世紀を代表する劇作家、テネシー・ウィリアムズの名作戯曲を映画化。

落ちぶれた名家出身のブランチは、当時ではタブーなテーマであったDV 、同性愛、強姦の現実世界に耐えきれず、妄想と嘘に塗り固めた夢の世界で生きてきたが、やがて隠していた過去が暴かれ、精神のバランスを崩し破滅してしまいます(う~ん、重たいですね。。)

人間が持ちながら隠している劣等感、性的衝動、孤独、虚栄心、老いへの恐怖などが赤裸々に暴かれる展開が圧巻です。心にドカッと土足で入ってきます。

そして印象に残る惚れ惚れする台詞が魅力的。

「ちがうわ、少なくとも心のなかでは嘘をついたことはなかった…」

「どなたかは存じませんがー私はいつも見ず知らずのかたのご親切にすがって生きてきましたの。」
(新潮文庫 小田島雄志訳)

精神障害を患った姉を持つ、劇作家ウィリアムズの想いが克明に刻まれた作品です。

1947年、ブロードウェイで初演。
演出:エリア・カザン
ブランチ:ジェシカ・タンディ
スタンリー:マーロン・ブランド
ステラ:キム・ハンター
ミッチ:カール・マルデン

ピューリッツァー賞、ニューヨーク劇評家サークル賞などの演劇賞を受賞し、多大な成功を収めながら、そのタブー表現から一部では"尊大で恥知らず"と毛嫌いもされました。

映画化の際も、ハリウッドの自主規制(プロダクション・コード)で脚本に細かくチェックが入り、同性愛の記述や強姦シーンが削除されました。内容よりも検閲が厳しい時代ですね。制作の裏では、芸術性を守る戦いがありました。

階段を挑発的な態度で降りてくるステラの描写など、扇情的な演出にも驚きました。

【ハリウッド映画を変えたメソッド演技】
監督・演出家であるエリア・カザンは、マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノなど数々の名優を輩出した「メソッド演技」を教える演劇学校「アクターズ・スタジオ」の創設メンバーです。監督作は、『波止場』や『エデンの東』などリアリズム演技と社会への闘争を描いた男らしい骨太映画なイメージが多いです。

彼の演出で花開いたメソッド俳優によって、ハリウッド映画の演技の質が変わったとまで言われています。

本作でも、今世紀最高のメソッド俳優と言われた若きマーロン・ブランドの強烈な個性と演技が、迫真のドラマを生み出し、銀幕で光輝いています。

【伝説の名優たちの共演】
本作でまず驚いたのは、前述したマーロン・ブランドの躍動感溢れるリアリズム演技と格好良さ!当時は肌着として見られていたTシャツが、ブランドの格好良さで大流行になったらしい。

労働者階級出身の野性的でがさつな感じながら、セクシャルで寂しがりでステラ命の男スタンリー。瞬間湯沸し器な性格。

「ステラ~!ステラ~ッ!」とこの世の終わりのような表情で叫ぶ時、激昂して皿を片付ける時に放たれた感情表現(一瞬怯んだりもする)は目を見張ります。どの瞬間でも目まぐるしく息づく演技は天才的です。

更に目を見張ったのは、ブランチ役のヴィヴィアン・リーの演技。『風と共に去りぬ』で有名な絶世の美女が、この役で登場した時は驚きました。

1949年ローレンス・オリヴィエ演出のロンドン公演でブランチ役を演じ、映画版の主役に抜擢されます。実際のリーも肺結核と躁鬱症を患いながら、幻想と狂気の狭間に落ち込む様を鬼気迫る演技で表現しました。余りにもリーに近い役柄のため、病気が悪化するのではと周囲が心配するほど完全にブランチにとり憑かれていました。

そしてこの役で病気を悪化させたと言われています。それほど演じたかった役。欲しかったのは、夫でもあった名優オリヴィエに匹敵する演技者としての名声でした。

精神の美しさと衰える容貌の美しさ、美しい空想と醜い現実。

リーほどの大女優が老醜を晒す場面はショックを受けました。

前半の舞台的で大袈裟な演技は違和感がありましたが(舞台的なオリヴィエの演出を取り入れたため)、後半の正体を暴かれてからの魂をすり減らすような演技は息を呑む迫力でした。白黒画面で故意に影になる表情が怖い。

低音で「許せないことってあるでしょう…」と朗々と独白する不気味さ。リーの流れるようなリズミカルな台詞と動きの美しさは気品と優雅さに溢れ、かつ儚く脆い。それがどんどん壊されていく残酷さに身震いしました。

あのスカーレットの燃えるような眼の光が、徐々に消えていく様はあまりに恐ろしかった。

撮影時、ブランドとリーはお互いを良く思っていなかったのも、いがみ合いに役立ちました(ちゃんと和解したみたいです)。どちらも繊細でありながら、場面の瞬間瞬間にリアルに反応するブランドの演技と、全てを意識的に計算して作り込んだリーの演技は水と油。どちらにせよ、世界最高水準の演技対決が白眉。

その演技の違いがそのまま、自由なスタンリーと抑圧されたブランチを表しています。

【色褪せない輝き】
今観ると間違いなく演出も古くさいです。白黒で台詞ばかりで面白くない人もいるでしょう。ただ今でも凄いと思うのは、人間の業を赤裸々に暴いた戯曲と名優たちが織り成す白熱した演技の完成度。

これだけは永遠に色褪せない。

誰もが羨む美貌と才能を持ちながら、繊細すぎて心の奥の激情に潰されてしまった女優ヴィヴィアン・リー。彼女が持つ意思の強さと気品と豊かな感情表現と儚さに、今でも惹かれてしまいます。

そんな彼女が女優生命をかけた本作の"戦い"をぜひ伝えたくなって、長々とレビューを書いてしまいました。お読み頂き、ありがとうございます。
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