えそじま

残菊物語のえそじまのレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
5.0
冒頭、歌舞伎舞台裏のロングショット、火の玉、光と影の妙。明治初期の東京、歌舞伎音楽。弟の乳母との恋を周りに反対された未熟な若旦那が、家を飛び出し芸事を磨く苦難の道を歩む史上最も格式高い"許されざる恋物語"。別れを引き換えにして女が乞うた男一匹返り咲き舞台。演目"積恋雪関扉"役柄墨染、男覚醒。圧巻の舞台姿に観客は目を見張り、長年の苦労に花開く。女、死の淵にてなお愛した男の功を祈る。男、晴れの「船乗り込み」。今まさに栄光の絶頂にある男と死を迎えたの女のクロスカッティング、完。


時間と空間の形像化、オフの視線を創り出す絶妙なフレームアウト、躍動感と奥行きを齎すドリーショット、ここぞという所での効果的な切り返し。大衆的なメロドラマを題材に、めくるめく映画技巧の乱舞を以て日本の固有文化を偉大な芸術として世界に知らしめた大傑作。役者の動作や構図からアップの少ない低画質、低音質でも感情が伝わる。文字通り不朽。
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