似太郎

残菊物語の似太郎のレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
4.3
例えばチェン・カイコーの『さらば、わが愛/覇王別姫』なんかを観ると本作を上手にリユースしているな、と感心するのだがこんな斬新な映像表現がまさか戦前の日本で作られたという事実にまず驚愕する。

特にフランスでミゾグチが黒澤明以上に評価が高いのは何となく分かる。フランス人って映画の内容よりも形式=スタイルを重視する傾向が強いからなー。本作はたしかにストーリーそのものは古臭く保守的な印象も強い。さすがに戦前だしね。

しかしそのめくるめく映画表現と溝口ならではのリアリズム…特にクレーン・ショットを用いた長回し等が…やはり惚れ惚れする美しさである。主人公の歌舞伎役者、尾上菊之助を演じた男優さんよりも彼と恋に落ちる女優さん(森赫子)の方が遥かに悲哀があって「許されぬ禁断の恋」という映画のコンセプトに花を添えている。

戦後の成瀬巳喜男の『浮雲』などにも通じる女の悲しい性(サガ)に肉薄した格調高い恋愛映画の傑作。故・淀川長治さんも絶賛した溝口のサイレント期の『狂恋の女師匠』は観てないが、どんなに凄い映画なんだろう…?と未だにフィルムが現存していない事がとにかく悔やまれる。

もし本作をリアルタイムで劇場で観たら、さぞかしショックを受けるだろうな…。🤔
似太郎

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