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残菊物語のRのレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
4.8
世界のMIZOGUCHIを久々に。冒頭は、あまりにガヤガヤし過ぎで、誰が何言ってるのか全く聞き取れず、え…ストーリー理解できるかな?と不安になったけど、途中からは7〜8割くらいは聞き取れてよかった。昔の日本映画はこれがちょっと問題笑 とはいえ、ストーリーはすごく分かりやすい。親の七光りで歌舞伎の世界でチヤホヤされてばかりの養子 菊之助は、実は陰でみんなが大根と噂してるのを知っていた。そんな菊之助に初めて正直な意見をはっきり述べ、励まし続けてくれる女 お徳に慕情を抱くのに時間はかからなかった。が、お徳は下女なので、世間の評判を気にした母は暇をやり、それを知った菊之助は家を捨てて飛び出し、お徳を追いかけて妻 とし、新たな地、大阪で自分の演技力だけで勝負しようとするのだが…という流れ。1939年の日本映画で143分という長さ。序盤は最後まで見通せるかなと思ったけど、メインのラブストーリーが展開し始めてからというもの、すべてのシーンに心を奪われて驚いた。ひとつひとつのカットが長いのが有名やけど、その中で施されてる演出がものすごく繊細かつ雄弁で、一見地味なのに、吸い込まれるように見入ってしまう。そして、カメラが移動を始めたら、視線と共に心まで持っていかれる鮮やかなエモの流れがお見事過ぎ。流麗! これぞアート! 特にふたりで西瓜を切って塩をつけて食べるシーンや、そのあとおかんとお徳が喋るのを他の下女たちが盗み聞きしてるシーンなどは、前半では特に印象深い。後半は、ひたすら大根から抜けられず、落伍していく菊之助のいじけた感じがマジいらいらするねんけど、それを必死で健気に支えるお徳にもイライラ。お徳がもっと力強い感じなら気にもならんだろうが、声が甲高く、弱っちいのにネチっこく、前向きなのにウエットやから、見ててゲンナリしてくる。溝口作品には多いけど、本作も、日本文化の最悪な面がしっかり描かれてて、それも合わせてイヤになってくる。特に伝統芸能の世界は、死ぬほどネチネチしててマジ最悪。やから最後の流れはちょっと都合良過ぎね?と感じなくもないんやけど、全体の演出が素晴らし過ぎてどうでもいいや!ってなる。終盤は、やっぱMOZOGUCHIヤバい!と、驚嘆に次ぐ驚嘆! それまで基本ワンシーンワンカットだったのに、カットバックが入り始めてからは、ジワーッと感動が広がり、床のお徳と舟の菊之助のラストカットには、全身トリハダ!!! すげーーーー!!!って思わず声出て、拍手してもーた! 素晴らしかった! デジタル修復ブルーレイが出てるので、それでも見てみたいのだが、あんまり画像が変わってないとのレビューもあるので、買ってみるのはナシやなぁ…。うーむ。でも見てみたい気持ちも…。ホントに映像素晴らしかったからさ。
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