オトマイム

残菊物語のオトマイムのレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
4.6
粋とか奥ゆかしさといったものが一貫して感じられ、自然と背筋が伸びる。
例えば本作は稀有な"うちわ"映画だと思うのだけれど、自分以外のものを仰ぐ所作の美しさにみとれます。ふたり歩く夜道、艶やかな長まわしの中、買い求めた風鈴を鳴らすのにうちわで風を立てるとか。また終盤、うつむいて寝床に向けうちわを仰ぐ男。必ずしもその場に必要な人物ではないけれど、その肩の震えが映るだけで胸が詰まってしまった。すばらしいと思う。
ほかに好きなのは序盤、お徳がかんざしを抜いてスイカの種を取ってあげるところ。これはなかなか色っぽい。機会があればやってみよう(笑)
菊之助とお徳の体が触れあうことはほとんどないのだけれど、お徳の慈しみのこもった声や舞台裏で一心に祈る姿、そんな慎ましやかな描写がほのかに官能的だ。

振り返ると心底幸せだったのは彼女の方だったのではないかな…と思う。与えられる愛を終始望んだ菊之助よりも。彼女は一生涯持ち続けた望みを叶えたのだから。
何度も鼻をかむほど泣いたのはひさしぶり。