タケオ

ローリング・サンダーのタケオのレビュー・感想・評価

ローリング・サンダー(1977年製作の映画)
4.3
 「ベトナム帰還兵の孤独を描いた傑作」として名高い『タクシードライバー』(76年)だが、実は「ベトナム帰還兵」という設定にはあまり重点が置かれていない。主人公のトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)はそもそも「人間」として多くの問題を抱えており、だからこそ満たされない自我を上手く埋め合わせすることができず、次第に狂気の世界へと引きずり込まれていく。従軍経験の有無にかかわらず、そもそもトラヴィスは孤独な男なのである。
 一方、本作『ローリング・サンダー』(77年)の主人公レーン(ウィリアム・ディヴェイン)の孤独の原因は明らかに「ベトナム戦争への従軍経験」にあり、同じポール・シュレイダー脚本作品でも『タクシードライバー』のトラヴィスとは決定的に異なる。「奴らが俺の命を引き抜いた、あれ以来何も感じなくなった」と、レーンは静かに呟く。7年間にも及ぶベトナムでの捕虜生活の中で、レーンの心は死んでしまったのだ。故に、作中でレーンが自らの感情を露にするような場面は1つもない。強盗団に右腕を奪われても、目の前で妻と子供を殺されても、だ。その代わりにレーンは自らの義手の先端を鋭く研ぎ澄まし、そしてショットガンを切り詰める。復讐の準備だ。「戦場」で失われてしまったレーンの心は、復讐という名の「戦争」の中でのみ蘇る。「戦争」の中でしか「生」を実感することができない——そんな『ランボー』シリーズ(82〜19年)のジョン・ランボー(シルヴェスター・スタローン)とも通底する「ベトナム帰還兵の悲壮」を、『ローリング・サンダー』はどこまでも乾ききったタッチで描き出していく。
 『ローリング・サンダー』はソリッドな「リベンジ・ムービー」であると同時に、骨太な「反戦映画」としても力強く機能している。「戦場」では、人は人ではいられなくなる。クライマックスの銃撃戦で、元部下のヴォーデン(トミー・リー・ジョーンズ)とともにイキイキとした表情を浮かべながら敵を殲滅してくレーンの姿は、まるで「戦場」以外の居場所を失った「ベトナム戦争の亡霊」のようだ。
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