凛太朗

時計じかけのオレンジの凛太朗のレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
4.4
本国イギリスでは26年間にわたり上映禁止、痛烈な全体主義批判の映画と言われたり、アメリカではこの映画の影響でアーサー・ブレマーが当時アラバマ州知事のジョージ・ウォレス暗殺を図ったとの日記を残し、後に出版されたアーサー・ブレマーの日記を読んだポール・シュレイダーがこれをモチーフに『タクシードライバー』の脚本を書き上げ、『タクシードライバー』に影響を受けたジョン・ヒンクリーはジョディ・フォスターに恋をしてストーキング、更にはレーガン大統領を襲撃という曰く付きの問題作にして、スタンリー・キューブリックの代表作であると同時に映画史に残る偉大な作品。

はい。ということで何十度目かの鑑賞ですが飽きませんね。いつ観ても素晴らしいです。
シンメトリックな構図を始めとしたスタイリッシュ且つ人間の奥底にある狂気を垣間見せるような映像、それに拍車をかける雨に唄えばやらベートーベンを始めとしたクラシック音楽の数々。シニカルで二ヒリスティックなキューブリックの視線。
強烈バイオレンスやらセックス描写をブラックユーモアたっぷりに描いていて、あたかも肯定しているように見えるので、受け付けない人が多数いるのも頷けるのですが、そういう感想を持ち、受け付けなかった人も、それはそれで正解だと思います。
そしてこれ、全体主義批判の映画だと言われており、実際そうだと思いますが、それだけでもないやろと個人的には思いますね。
主人公がアレックスであり、強烈な個性なりカリスマ性を持っている上に利己的で、あんなディストピアで衣装も美術も歪で浮世離れした世界に見えると思いますが、映画に出ている登場人物の殆どが、全体主義社会の中にありながらもう一方では極めて個人主義的に動いているんですよね。
ルドヴィコ療法とかいう自由意志を奪う治療を経て娑婆に出てきたアレックスは、因果応報とは言え個人的な恨み辛みによって社会的に悲惨な目にあいます。
キューブリックは全体主義を批判すると同時に個人主義も批判しているというか、物凄く中立的な視点から、シニカル且つニヒリスティックに、そこに在る、または在り得るジレンマを撮ってるなと思いますし、更にこれ、現代社会の我々日本人も他人事、映画の中の話と割り切れるものでもないと思いますね。

時計じかけのオレンジ(見た目は普通でも中身は変、或いは、そのまんまオレンジを人間に置き換えて、見た目は人間でも中身は機械のよう)になってませんか?と。
各メディアやらSNSやらに操られて、肝心の自分の考えを見失ってませんか?それ本当に自由ですか?ってキューブリックがあっちで冷笑を浮かべているような感じがする。
凛太朗

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