Wakana

時計じかけのオレンジのWakanaのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
4.1
セックスとマッドネスとバイオレンス。

アレックスは「立派なクリスチャン」として社会復帰を果たすが、過去にやらかした相手に復讐されっぱなし。「一方の頬を打たれたらもう一方の頬も差し出す」アレックスと、「目には目を、歯には歯を」の精神によって彼を痛めつける過去の被害者たちの対立。
形式的にはキリストの教えの一つを守る憐れな男アレックスだが、言うまでもなく彼は人間以下だと非難される。
教誨師曰く、「善は選ばれるべきで、選ぶことができなくなったときは人であることをやめた」からだ。

選択するということは、どこかに善と悪を隔てる判断の基準があるということだけど、基準なんて個人によって異なる上に、その時その時で変化してしまう。
じゃあいわゆる〈ユニバーサルな基準〉ってどこで身につけるの。

刑務所内では暴力と恐ろしく厳しい規律をもって矯正を試みるが、それでは時間がかかり過ぎる。
洗脳して逆説的に善き行いをさせれば、それは非人道的だと非難される。
「すっかり治った」アレックスは、〈人間〉に戻ったのかそうではないのか。

基本的に誰しも「時計じかけのオレンジ」にならないために、善を選ぼうとする。でもその判断の基準の正体が、社会でうまく生きるための正義や、世間で後ろ指を指されないためのモラルを持つことだとしたら。
それだけならまだしも、その選択によって、〈善〉でありながら誰かに致命的な〈暴力〉を振るってしまったら。

どこかにあるはずの〈最後の良心〉を頼りに、この状況から救われたいと願う。でも洗脳・矯正しか受けてこなかった人間は、どこからそれを探せばいいのかとても検討がつかないと思うの。
Wakana

Wakana