人格者ともして知られる日本陸軍の名将山下奉文の半生記。
いちばん有名であろう「イエスかノーか」の再現シーンからスタート。
フィリピン・ルソン島への配置転換、マニラを引き払い山中へ転進、在マニラ日本人たちの苛酷な運命、終戦、軍事裁判とネガティブな要素が連なっていて、見てて切ない。ただ、映画として面白い。
タイトルにもある「悲劇の将軍」であることはよくわかるのだが、有能さを示すくだりが冒頭だけなので、予備知識ゼロで望むとちょっとついていけなくなりそう。
「戦争中の悲劇」という切り口・チョイスは、「ひめゆりの塔(1953年1月9日公開)」が超絶大ヒットした影響と思われる。その結果、スカッとはしないけど、日本人の自虐史観を満足させるこの映画の完成にいたったのではないだろうか。
市民を巻き込んだことで悪名高いマニラ市街戦は、マ海防が独断で行ったことなどもフォローされていたが、ルソン島山中の飢餓地獄までは描写されていない。小説「野火」が1951年掲載・1952年刊行とのことなので、触れてもおかしくなかったがその示唆もなし。(「野火」の舞台はレイテ島だけど)まあ、山下将軍周辺は飢えてなかっただろうから、リアルといえばリアルか。
いにしえのテンプレ、「ショックなことがあって気が狂う」くだりがあったので、そのあたりで人心の荒廃などを描いていたのかもしれない。
英語がわからない役柄をしている早川雪洲が面白い。すごい雰囲気が合って、本当に将軍っぽかった。
のちの映画「大日本帝国(1982)」では、敵味方とも兵士目線のフィリピン戦になってたけど、こっちは偏差値の高い将官目線のフィリピン戦で、同じ戦いなのに違って見えるのがまた楽しいのだった。
面白かった!