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市民ケーンのERIのレビュー・感想・評価

市民ケーン(1941年製作の映画)
4.3
町山さんの解説は見ても聞いてもないのだけどマンクの前に観たほうがいいと至る所で目にしたのでみた『市民ケーン』。割と半分は「古典すぎないかな。わたしは楽しめるのかな?」と不安な気持ちもあったのだけど、なんてことはないめちゃくちゃテンポも良くて、いちいちセンスが良くて面白かった。

こういう映画がアマプラの配信で観れるいま、しみじみすごいよなぁ。例えばこの映画を同時代に見ていた人が今の映画体験を知ったら、かなり驚く時代だろうな。


まずウィリアム・ランドルフ・ハーストさんの富の築き方、すんごいな。そして彼を主題に創作したオーソン・ウェールズのセンスも、すんごいな。

1941年にこのクオリティって凄い。たしかに後世に影響を与えた映像のアイデアがいっぱいあるね。小難しいこと抜きにぞくっとする表現が至るところにあって普通に見入ってしまう。

ケーンの幼少期、ママがお家の中で戦ってるシーンとか凄い好き。いい絵だなぁ。ケーンが雪だるまを外で作ってて、そんな彼を窓越しに捉えて家の中ではママとサッチャーらが大きな決断をする。この二重の表現のうまさ。ママをフォーカスにして、遠くで子供の声。そんなウブだったケーンも富を得てどんどん力を持っていく。

映画の中で奥行きを感じさせる撮影技法もとても好き。この時間が行ったり来たりする構成も、当時映画館で見た人は面白かっただろうなぁ(いまも面白い)時系列で物語るのではなくテーマ性から考えても「バラの蕾」の謎に迫る表現として、今の視点とケーンの当時を入れ混ぜることによってより真実に近づいていくように感じる。

敢えてケーンに光を当てずに彼に思惑を語らせるシーンとか光と影の使い方もうまいし、構図の決まり方もいい。外からのパーンで窓を机にして文字を書くケーンの撮り方も彼の型破り感をちょっとしたことだけど伝えているし、そこからどんどん儲かっていく彼の敏腕っぷり、からの男たちが長い長い机を囲んで祝杯をあげる絵の豪華さへの展開とか。うまっ!ケーンが華々しく富を積み上げていく様子が伝わって、このピークが盛り上がれば盛り上がるほど終焉の孤独さが際立つ。

政治と女とスキャンダル。

資本主義が揺らぐ今この時代にみることの意味もあるように気がして、そういう意味でもとても興味深い。

人生の教科書みたいな人生であり、映画。彼が最後に投げつけられなかったスノードームは、母が大きな決断をしたときに遊んでいた雪、手にできなかった本当の愛を投影してるし。多大なる資産をかけて、いろんなものを集めたけれどどれもガラクタで本当に手にしたかったものは見つけられずに死んでいった。富がいくらあっても、高価な物を集めても、目の前の人に愛を与えられず見返りばかりを求めた彼の人生は本当に欲しい物を手に入れられなかった。

面白い映画だった。
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