〈麻薬的な高揚感も効き目が切れた最前線〉
戦争の恐ろしさは、怯える人間からこそ見えてくる。『プライベート・ライアン』冒頭のオマハビーチのシーンを彷彿とさせる無謀な攻略作戦を、本作はもっと長時間に渡って描いていく。
戦争に対して我々が思い描きがちなアドレナリン全開の興奮状態はとうに冷めてしまったようだ。前には機関銃、後ろには檄を飛ばす上官。逃げ場なき死線に立たされ、どこか美化していた戦争の格好よさや自信がいかに根拠のないものか気づいた兵士たちが震えている。
しかし、マリックの詩的映像と戦争映画の相性もよいものだ。ガダルカナル島の原生林と個性豊かな野生動物たち。祖国で待つ妻との濃密な記憶。マリックの持つ風景や空間への感受性が、のどけさと過激な戦場のコントラストを際立たせている。