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日本春歌考の小のレビュー・感想・評価

日本春歌考(1967年製作の映画)
3.5
東京・渋谷ユーロスペースで、現役日藝生の企画・運営による映画祭「映画と天皇」にて鑑賞。本作の大島渚監督と17歳の時から30年間文通していたという映画監督・映画評論家の樋口尚文さんのトーク付き。

いろいろな春歌を調べて日本社会の深層心理みたいなことを考える話かと思っていたら、全く違った。トークがなければ、単に変な映画だなあと思っただけで記憶から消えていっただろう。

大島監督と言えば、深夜のテレビ討論番組で「バカ野郎!」と怒鳴るオジサンというイメージが強いけれど、彼の作家性が色濃くでている映画のようだ。

この映画の成り立ちについては次のよう。①『白昼の通り魔』のヒットなどで、大島はエロだと当たるという話になった、②添田知道が性に関する俗歌を収集した「日本春歌考」という本が話題になっていた、③「大島、この本をネタにしてでなんか撮れや」ということになった。

その結果、低予算かつ3週間という短期間で完成したのがこの「エロ映画」。完成2週間前にもシナリオができておらず、キャスティングも決まっていない状態。アフレコ作業が間に合わず、地方の劇場では公開が3日遅れたとか。

ということなので、春歌の中身について考察などがあるわけがなく、春歌も「ひとつでたホイのよさホイのホイホイ」の「よさほい節」ばっかり。春歌以外にも、軍歌や革命歌、フォークソングなど、様々な歌が歌われる。

それで何が言いたいのかと言えば、「何もしないくせに歌を歌って、いい気持ちになってんじゃねえよ、バカ野郎! 立場を考えろ立場を。お前がそんな歌を歌ってる場合か、バカ野郎!」ということらしい(「よさほい節」は「バカ野郎!」代わりに歌われている感じ)。

主人公の不条理から目をそらそうとする女子高生たち、言うことは立派だが、実行が伴わない革命家崩れ、従軍慰安婦の心情を歌った歌の意味がわからず、パンクですか?と聞く、フォークソングを歌う能天気な若者たち。こいつら、みんなバカ野郎!なのかな。

そうしたなか、主人公と469はまだしも見込みがある。口先だけでは意味がないことをわかっている469は、ブルジョアだけどいいヤツなんだ、と。とにかく、行動するんだ、バカ野郎!

NHKが2013年4月25日に放送したクローズアップ現代によれば、大島監督の<常にテーマとして描き出していたのは、社会の不条理で>あり、<「現在この社会の中で存在する不条理なもの、不合理なものに対して、怒りを持って闘っていくことなしには社会の進歩はないんだ」>ということらしい。
(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3341/index.html)

ただ、世の中が豊かになる中で、監督のこうした思いは受け入れらなくなっていく。それが50年の時を経て、大学生が本作を選んだことに、勝手に意味を考えてしまう。

紀元節復活の当日に黒い日の丸を掲げ行進するシーンを撮影したということはあるけれど、それは本筋とはほぼ関係なく、「天皇」というテーマからはかなりはずれているにもかかわらず、何故学生は選定したのだろう。

社会の不条理が許容範囲を超えてきているのか、若者達がオジサンよりもはるかに見込みがあるのか。少なくとも、後者であることは間違いなさそう。

●物語(50%×3.5):1.75
・ナニコレ的な自分は「バカ野郎!」なんだろうなあ。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・黒い日の丸は凄いかも。今、やる人いないだろうなあ。

●画、音、音楽(20%×2.5):0.50
・やっつけだし。
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