そのじつ

モンゴルのそのじつのレビュー・感想・評価

モンゴル(2007年製作の映画)
3.6
英雄譚を馬頭琴の弾き語りで聴いているような感触の作品だった。
子ども時代から始まる英雄の物語は「苦難」などと一言で片付けられないほど惨く、やるせない。隠れる場所もない平原を、馬に乗った追っ手にどこまでもどこまでも追いかけられる絶望感。それが何度も繰り返され、モンゴルの平原に持っていた牧歌的イメージが変わった。

出演者はモンゴル出身の方が大半なのか、衣装と風景にビタリとハマっていて素晴らしい。残念ながら主演の浅野忠信はどうも日本人に見えてしまって、作品唯一の違和感。

テムジンはもう少し骨太でいかつく、笑うと人なつこい、みたいなイメージを勝手に作ってしまった。
あの惨い子ども時代をくぐり抜け、モンゴル統一を成し遂げた英雄に相応しい立派な肉体を期待してしまうのだ。浅野は線が細すぎる…大陸的ではないように感じる。

妻の産んだ子はみな自分の子としてわだかまりなく迎え入れる包容力、仁義の厚さが観客を驚かせ心を掴むのだが、浅野テムジンの優しげな微笑みはなんとなく頼りなげである。
敵に略奪され辱めを受けながら、冷静に夫を信じて行動する妻の凄みが圧倒的で、テムジンの影が薄まる。

音楽はあまりしつこくなく、要所要所で挿入されるホーミーのうねるような声が印象的。スタッフロールでかかるロックアレンジのホーミーとオルティンドーもいかにもモンゴル的でよかった。
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