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呪いの家のhorahukiのレビュー・感想・評価

呪いの家(1944年製作の映画)
4.3
ハリウッド初の本格的幽霊屋敷映画!

兄妹が一目惚れして即決購入したお屋敷。でも時折、女のすすり泣くような声が聞こえてくる…。売主は近所に住む20歳の女性。彼女は過保護な祖父から屋敷への立ち入りを禁止されていた。「聖女」と呼ばれ、崖から転落死した彼女の母親にまつわる暗い過去が次第に明らかになっていく…。スコセッシが絶賛しているらしい。

今となっては真新しい物語ではないけれど、30〜40年代においてコメディ的に描かれてきた幽霊を恐怖の対象として真正面から描いた金字塔的作品。大部分は売主の女性ステラと、亡くなった彼女の両親に関する秘密を解明していくシリアスな雰囲気で占められつつも、それまでの名残からか、日常パートにはラブコメ的コミカルさがあり、主人公を演じるレイミランドによって無理なくオンオフが切り替えられていくのが心地良い。

亡くなった母親(完璧な女性)が死してなお生者たちを支配し続ける『レベッカ』のような印象が強く、本作でも中盤以降までは「幽霊」を一切出さずにその存在感を高めていく婉曲的な演出が採られている。レベッカに対するダンバースのような、亡くなった女性を崇拝しつつ同性愛的仄めかしがされるキャラクターまで登場し、原作の時点でデュモーリアから多大な影響を受けているように感じた。コレの原作は読んでないんだけど😂

モヤの中から薄っすらと人影のようなものが浮かび上がる程度に留めている本作の「幽霊」の見せ方自体も幻想的で綺麗なのだけど、これは監督の意図したものではなくパラマウントに「幽霊を見せる」ことを強制されたものらしい。だから本作では実際に「幽霊」が登場してしまうわけだけど、それを考慮に入れたとしてもロバートワイズ『たたり』への影響は相当大きいと思う。

寒気、花が枯れていく特撮、ミモザの香り、蝋燭もいう頼りない光源の徹底、決して二階に上がらない犬等々、特に何が起こるわけでもない中で「何か」の存在感を積み上げていく手堅い幽霊屋敷演出。今となっては定石となっているものだけど、当時としては目新しかったからなのか、ナレーションやセリフでの説明のあとにその通りを音と映像でなぞっていくことで実在性を後押しし、キャラクターたちの反応と観客との反応に明らかなズレを作り出すことで、「幽霊」とは主観が生み出したものであることを強調する。「間違いなくここには幽霊がいる」という考えを、画面内にいる者たちの間だけで通用する常識として共有させ、周囲により押しつけられた「聖女」の継承を跳ね除け(もつれの解消)、アイデンティティを手にするまでを描く。

そして何よりも凄いのが撮影。空間に対する自然な嫌悪と理性的賞賛を同時に表現する照明、壁に投影されるキャラクターたちの影こそが主役のように感じさせ、キャラクターの心的な離脱・対面も影でやってしまう。クライマックスで開く扉とその向こう側に開く闇に途轍もない迫力を与えてしまう「闇」を信頼した演出の連続は、もう再現不可能な凄まじさ。更にそれが主題とも連関する抜かりなさも含めて金字塔として圧倒的な説得力があった。『たたり』『回転』あたりが好きな人ならハマるんじゃないかなと思う!めちゃ良かった!
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