【暴力を受け入れる】
濱口竜介監督が東京大学文学部を卒業後、新設された東京藝術大学大学院映像研究科に改めて入学し、その修了作品として発表した恋愛群像劇。
〈あらすじ〉
結婚を間近に控えた一組のカップル。仲間の祝うパーティーの席上で、期せずして男の過去の浮気が発覚する。男と女は別れ、それぞれの夜を過ごす…。
〈所感〉
いくら濱口竜介とは言え卒業制作でこのクオリティとは恐れ入った。最近見たエドワード・ヤン監督の『恋愛時代』を想起させられるような20代後半の都会の男女の軽佻浮薄な恋愛劇だが、河井青葉演じるカホが教室で「暴力」について語り出すシーンから一気に作品の空気感がシフトした気がする。暴力は大きく分けると、内側から来るものと外側から来るものがある。内側から来る暴力に対して我々は自制の心をもって必死で押さえ付ける責務がある。しかし、外側から来る暴力に対したは基本的に抗うことができない。究極的には、仮に自分が殺されるとしてもそれを甘んじて受けいれ、許さなければならないという旨の発言すらしていてどうかと思った。だが、もう一つ重要なシーンである本音ゲームでは、本音だけに普段の関係から解き放たれた剥き出しの言葉の暴力にビシバシやられた。言葉を受ける側は抵抗することもなく甘んじて受けいれる他ない。これは、ただの恋バナではなく、先程の暴力の話の延長線上にある重要な言葉の殴り合いだった。仮に、自分が本音ゲームに参加したらムカついて相手を殴ってしまうかもしれない。本来それは内なる暴力なので自分で止めないといけない。しかし、原因を辿ると外から加えられたものだとしたらそこに起点などあるのか。一体怒りは何処から生まれるのか?それくらい一度関係をぶち壊して脱構築しないと、本当の友情や恋愛には至らないかもしれない。考えがまとまらないが、そんなことを考えさせられた只モノではない作品。光るものがあるとかでなく、センスも技術も抜群で既に一級品。コンビナートでの岡部尚演じる健一郎とカホの長回しがめちゃくちゃ良かった。