優しいアロエ

8月の終わり、9月の初めの優しいアロエのレビュー・感想・評価

8月の終わり、9月の初め(1998年製作の映画)
3.7
〈会話と日常的所作の同期〉

 仕事や住居、男女関係に齷齪する大人たちの日常を『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のような小刻みなフェードアウトと素っ気ない会話によって構築していくオリヴィエ・アサイヤス作品。

 興味深いのは、そこに彼ら共通の友人であるアドリアンの病気と死の気配が影を落とし続けることだろう。アサイヤスのインタビューによると、本作の草案はエイズの流行していた1980〜90年代まで遡る。当時の若者たちが漠然と抱いていた“死への意識”のようなものが、アドリアンという存在として具体化した。

 こうして大きな分岐点を迎える人生の再構築の物語は、アサイヤス曰く「クレオグラフィー(=ダンスの振り付け)」のような演出によって実に生き生きと再現されている。『冷たい水』『イルマ・ヴェップ』同様、16mmカメラによって自由な構図を獲得し、人物たちの会話を自然体で流動的な所作のなかに溶かしていく。たとえば雑誌を手に取ったり、花瓶の位置を替えたりといった何気ない行為が、会話と洗練されたリズムを生みだすのだ。

 ウディ・アレンやノア・バームバックの作品を水に薄めたような感触を初めは受けるかもしれないが、次第にリアルな人物の活写としての妙を感じることだろう。ヴィルジニー・ルドワイヤンはここでも体を張っている。
優しいアロエ

優しいアロエ