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アフタースクールのNMのレビュー・感想・評価

アフタースクール(2008年製作の映画)
3.7
コメディに分類されることもあるが、笑うシーンは数箇所のみ。それよりもストーリーとして面白く、何気なく深いことを描いてもあり、感動もある作品。

回想シーン。なにやら制服の美少女が木村君に手紙を渡している。

木村。
一流企業に勤める、社会的信用の厚い人物。
ネクタイを締め、出産を控えた美樹の作った朝食を食べ、仕事に出かける。彼女はかつての同級生。
出勤途中、同じくかつての同級生でほど近いアパートに住む神野の新車をなかば強引に拝借しても怒られない関係。「あいつのこと頼むな」と言い残してさっさと出発。
以降、木村は音信不通に。会社には病欠と連絡があったらしい。
一体どこへ。

神野(じんの)。
木村と同じアパートに住んでいる。美樹は神野の分まで朝食を作ったと言う。
木村が消息を断った日、出産を迎えた美樹に付き添った。とても絆が深い様子。
家にいる姑らしき男が、不在の木村の浮気を疑う発言をすると、木村に限ってそんなことは絶対にないですと断言する神野。真っ直ぐな性格らしい。
神野は中学の教師で、今は母校で勤務している。

あるサラリーマンの依頼を受け、木村を追ってその母校を訪ねてきた怪しい男・北沢。
実在の同級生、島崎と名乗り卒業アルバムを見に来たらしい。
だがそこで働く神野に出くわしてしまい、しかもその島崎は奇しくも神野の妹を好きだったらしく、話を合わせるのに苦労する。
北沢は大人のおもちゃ屋を営み、一方でカタギの探偵には頼めない案件を扱う情報屋、なんでも屋。

何とかそのピンチを切り抜けたと判断した北沢は神野を強引に捜索に巻き込む。
二人であちこち回ると、木村に行動に不審な点が明らかになってくる。
駐禁で見つかった車の中にはプレゼント包装された指輪があった。それを見てため息をつく神野。

「ずっと教室で生きてるやつに人間の何が分かるんだよ」「早く卒業しろよ(嘲笑)」
純粋そうな神野の様子が気に食わない北沢は悪態をついて満足そうに笑う。

神野に偉そうな態度を取っていた北沢だが、実は片岡という男からギャンブルで大金を借りている。それでおもちゃ屋以外にも手を出すようになったらしい。
この依頼を片付けたら北海道に逃げるつもりだったがその算段が片岡にばれてしまい、それ以降は片岡の管理下で動く。

ある女が消え、その日一緒にいるところを最後に目撃されたのが木村だった。
依頼元は木村の勤務する梶山商事の社長である大黒であることが分かった。そのことが片岡という人物にバレる前に見つけ出したいらしい。

片岡は梶山商事の重要な取引先の社長。といっても表沙汰にできない付き合いで、絶対に頭が上がらない。
写真の女は片岡の愛人であるホステスのあゆみらしい。自分の会社の社員が手を出したらしいとなれば非常にまずいことになる。

両者の関係性に気付いた北沢は、女が梶原商事の社員と一緒にいましたと片岡にチクるぞと脅し、依頼料金を釣り上げる。

連絡係として動いていた社長側近はうんざりしたらしく、社長から離れてしまう。
以降社長・大黒自身が単身で動くことに。

そういえばこの側近は木村捜しの命令を受けたとき「私は会合の準備が」と言って恐らく逃げようとしていた。
写真の情報をゲットし大黒に報告した張本人ではあるが「もちろん私の勘違いかも知れませんが」とも最初に言っていた。
もっとも、知っていて嘘の情報を吹き込んで途中で大黒を切り捨てたと考えられなくもないが。
片岡に今回のことがバレて困るのは会社ではなく厳密には大黒一人であり、困った時に彼のために動いてくれる人など始めからいなかったのだ。

北沢も信頼していた舎弟に裏切られ、後半は単身で行動する。
札幌に来るかと言った時この舎弟は「もちろん……です」と答えつつも目を泳がせすぐに目をそらした。カメラはその後も彼にピントを合わせたまま。ゆっくりと顔を上げ北沢を見つめ、シーンが終わる。

木村は意外なところにいた。
しきりに、木村の何が分かる、何を知ってる、と神野にふっかけていた。
「お前みたいなやつ、クラスに必ず一人はいるんだよ」
本当に卒業していないのは誰だったか。大人になっても「教師なんて嫌い」という単純な思考から進んでいなかった。教師だろうが何だろうが愚かな人も賢い人もいる。
木村は、唯一信用していた舎弟の動揺にも、写真を見た神野が硬直したことにも気づかなかった。バクさんにさえ、金のニオイを嗅ぎつけた顔を指摘されている。
この作品はこの北沢が脇が甘いからこそ成立している。

後半はそれまでの設定及び思い込みのほとんどをひっくり返される展開。

単純な話のようでいて他人を一部の情報で判断するなど不可能であることを考えさせられる。
例えば、あゆみは妊娠して逃げたと思っていた、という台詞の直後、出産した女性が出てくるので、映画や小説をよくみる人は種明かし前に気づく人もいるのだろう。

出産のとき看護師が「お父さんは?」と言うと神野は「お父さんまだいないです」と答えるシーンなどは、観客は当然、木村はまだ到着していませんという意味だと捉えただろう。
前・後半で完璧に繋がっているとまでは思わない。「木村なら病院に行けば会えるよ 子ども生まれたんだ」という少々強引な言い方で観客を騙す、或いは更に念押しするような台詞もある。

なぜ神野が彼にはとても似つかわしくない外車を購入したかという設定が好みだった。彼女を乗せるにはこれぐらいでなければとでも思ったのだろう。
最初は頼りなさそうに見えていたが実は頭が切れ、感情や行動のコントロールができる。最後にはびしっとキメてますます格好良くなる。

姑と思われた男が悪態を付きつつも女性に言い負けたり彼にコーヒー牛乳を買ってきてやったりと、微妙に憎みきれないキャラクターで書かれていて面白かった。
あれは意地が悪いのではなく、ただやる気に燃えて息巻いていただけだったのに勘違いしていた。女性も、彼が父だからではなく、自分を守ってくれる人のことを悪く言われたり部屋を汚されそうになると一言言わずにいられなかっただけ。

出産のとき助けてくれた人の良さそうな彼も最後にまた現れて満足。恋の方は望み薄いようだが。

特に木村は、報われないと知りつつ職を賭してまで大事な人たちを守り、崇高なほどのレベルで本当の愛情とは、友情とは何かを見せてくれている。
始めから神野の言っていた通りの、いやそれ以上の人物だった。

最後はハッピーエンドですっきり。彼女は片岡のなかでは死んだことになっているから今後はきっと幸せに暮らすのだろう。

どうでもいいこと
ピザがやけに美味しそう。
「女は怖い」と嘆くが他は皆男性であり意味不明。
ガラケー、テレビデオ、シャギーヘア等が懐かしい。
最初にホルモン屋のバクさんが出している料理が謎過ぎる。真ん中にエリンギを突き立ててあり、火を通したようには見えない。店内のメニューは読めば読むほど切りがなく、一体その膨大であるはずの材料をどう保管しているのかも謎。
バクさんを演じている俳優は片岡爆。
「どれだっていいよ」「熱い!」「よかったねっ」は面白い。
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