安堵霊タラコフスキー

年上の女の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

年上の女(1958年製作の映画)
4.5
黒沢清のダゲレオタイプの女がジャック・クレイトンを意識した作品と聞き、てっきり題材的に回転の影響かと思ったが、どうやらこの作品の影響の方が強かったらしい

まず冒頭汽車が駅に着くところからまんまだし、そこから直接仕事場へ向かいその仕事場で運命の女性を目の当たりにする件、そしてラストシーンにと特に始まりと終わりにそのオマージュが集中しているが、男と女の不可思議な恋愛を描くのに(カンヌとアカデミー賞で受賞しているとはいえ)この微妙にマニアックな映画を参考にしてリスペクトを捧げるとは、黒沢清のシネフィルぶりもさすがである

閑話休題、この作品の内容について触れると、二兎を追った男が一兎は得たけど失ったものも大きかったというような話で、ファム・ファタールに30代後半の女性を当てがってるのは面白かったが、そのファム・ファタールにシモーヌ・シニョレを選んでいなければこの作品は成功していなかったかもしれない

シモーヌ・シニョレはこの映画でカンヌの女優賞とアカデミー賞の主演女優賞を同じ作品で受賞した二人目の女優となったのだが、それも納得せざるを得ない存在感と演技力を発揮しており、実質的な主役は相手役のローレンス・ハーヴェイで彼より出番は少ないのに完璧に食ってしまうほどで見ているこっちも圧倒されっぱなしだった

勿論それだけでなく、貧民街の描写やそこ出身の主人公の成り上がり過程といい、後のブリティッシュニューウェーブに先んじたような要素やジャック・クレイトンの堅実な演出力を含めてこの映画は評価されるべきなのだが、最大の功労者はやはりシモーヌ・シニョレと言わざるを得ないだろう