大映が生んだ時代劇ヒーローの第一作目。
三船敏郎が『用心棒』で演じた浪人がみせる印象的な仕草は「しきりに肩を揺らし顎をさわる」というニヒルなものだったが、座頭市シリーズの勝新太郎が演じたキャラクターの特徴は「何度も小さく会釈をする」というもので、一見するとへこへこと情けない男のように思える。
しかし、座頭市は必要のない時に自分を強く見せないのであって、その無頼漢性を堅気に悟られぬように、近寄りがたい態度をとったり、闇雲に威張ったりはしないのだ。
記念すべき第一作である本作は、ヤクザ相手に丁半博奕をして金を巻き上げる「看板の賽」や、夜道で刺客に襲われたとき提灯を消して相手を翻弄するなどの盲目ならではの見せ場、旅先で出会うマドンナやライバルとなるワケあり浪人など、後年のシリーズになると、ほとんどセルフパロディになっていくお約束の元ネタが見られる。
そして何より魅力的なのは、本作の敵役となる浪人の平手造酒だ。天知茂が演ずるこの侍の存在が作品を数段格式高いものにしている。愛知が生んだトウカイテイオーはトコナか天知か…と言ったところ。河原で釣りをする座頭市の隣にやってくる平手。彼等が数言交わした後に互いが只人でないことを察するこのシーンは、のどかな場面のなかに背筋を貫くような緊迫が張り詰めている。
昔、世話になったヤクザの飯岡親分のところへ厄介になる座頭市。彼は飯岡組と対立する笹岡組との抗争に手を貸すことになる。そして、何の因果か笹岡組の用心棒として雇われる平手造酒。互いを友と認めた二人の男が、この非情な偶然を運命だと確信するに足る巧みな語り口。それでいて、短い時間でケチなヤクザの抗争や女の恋などサブプロットにも焦点を当てていく娯楽映画としての無駄の無さ。一作目に相応しく続編ような牧歌性が入り込まないシャープでドライな作品だ。
難点は、照明の効果が薄いため自然光の入らない建物の中を撮った映像が暗く感じられることか。まぁ、そんなことは関係なく楽しめる。
よく娯楽映画の何たるかを知りたければ座頭市を見ろなんてことを言うが、それはまったくもって間違っていない。この一作目は「活劇映画の面白さ」というものを混ぜ物のない原液に近い形で堪能できるだろう。