4K修復版を劇場で鑑賞。
19世紀ロンドンの雰囲気が細部にわたって素晴らしく、制作された時代性を全く感じませんでした。つい最近作られたとも思えるし、40年よりもっと昔だと言われても分からない、デヴィッド・リンチ監督の演出の力量はお見事です。
ストーリーは、見世物小屋にいた奇形のジョンを外科医のトリーヴズが研究対象として引き取り…という展開。
辛く哀しい物語だと分かっているのに、とにかく引きこまれました。
産業革命で急速に変動するロンドンにおいて、バリバリの階級社会でもある人間模様。知識も道徳心にも欠ける理由のない悪意をもつ労働者階級と、ノブリスオブリージュであることで体面を保つ善意の貴族階級。そしてどちらの階級にもある、異質なものへの恐怖と好奇心。
しかし、そういった枠組みを超えて一人の人間として思いやりや誠実さを体現しつつも、善意でしたことが全て良い結果につながるわけではないと苦悩するトリーヴズの姿は、私たちに強烈な課題を投げかけてきます。
ジョンをどこまでも美しい心の持ち主と描いたのは、外見の醜さに惑わされ、内面を見る余地など全く無くなる人間の浅はかさが表現されており、ある意味で彼を救ったのは同じ見世物小屋の仲間だけというところにもその意図を感じました。
当時の社会情勢と、いつの時代も変わらない人間の複雑な性質を、極めて俯瞰的に描いた名作だと思います。
見世物小屋のバイツの元にいた少年を演じていたのがデクスター・フレッチャー!
出番は多くないけど、印象に残る良い演技だった。