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ニューヨーク・ニューヨークのkouのレビュー・感想・評価

4.0
《そうしか生きられなかった男》
マーティン・スコセッシの音楽への愛が詰め込められた作品。フィルモグラフィー的にはタクシードライバーの次の作品に当たる。ニューヨークが舞台で、しかもジャズがテーマとなればマーティン・スコセッシが最も得意とするところだろう。あえてのセットでの撮影、映画の古典への愛も感じられる一作だった。

やはり、マーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロが組むとデ・ニーロの狂気とさえ思えるような力強さを感じる。そんな身勝手な男に付いていく女性をライザ・ミネリが演じる。このライザ・ミネリがきれいで、そして女性として魅力的なのだ。配役的にもとてもあっていたのではないか。

終戦の夜、ニューヨーク。サックス演奏者のジミーは強引に歌手のフランシーヌを誘う。このオープニングシーンの人数、セット共に豪華で素晴らしかった。また、ジミーの強引さに笑ってしまう。ジミーはフランシーヌのツアーに押しかけ、そのまま楽団のメンバーになる。その後もジミーの行動は強引で、結婚も唐突にしてしまうのだ。ただ、それだけの魅力が彼にはある。サックスの確かな腕と強引ながら男らしさのある部分にフランシーヌは中盤確かな信頼と愛情を寄せるのだ。

ある事が起こってから、ジミーとフランシーヌの関係は変わっていく。自分の思い通りにならない現実に、ジミーは苦悩し、フランシーヌへの嫉妬も生まれていく。彼のどうにもできない思いは互いを傷つける方向にしか向かない。マーティン・スコセッシはこういう男を描くのがとてもうまい。今作のジミーも彼自身の弱さや自意識から多くのものを無くしてしまうが、その姿こそ、とても切なく、それでいて愛おしく、男という生態を表しているのではないか。そしてそれは絶妙なラストシーンでクライマックスを迎え、苦いながらも、そうとしか生きられなかった男の姿を見るのだ。

改めてマーティン・スコセッシらしい作品だと思う。音楽も素晴らしかった。タクシードライバーやレイジング・ブル、グッドフェローズにも通じる、男を描いた作品だと思う。
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