亘

パンズ・ラビリンスの亘のレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.5
1944年北スペイン。少女オフェリアは母の再婚相手ビダル大尉の元へ向かう。大尉は権力しか興味ない独裁政権軍の男だった。ある夜オフェリアは妖精に迷宮へ導かれる。迷宮で彼女は地底王国の王女であると知り、3つの試練を与えられる。

スペイン内戦の傷跡が残るスペインを舞台にしたダークファンタジー。舞台となった1944年はフランコ政権下であるものの反乱勢力が残っており、現実世界はかなり痛々しく辛い。特に大尉は力でいうことを聞かせようとする冷酷な男で逆らえない。オフェリアはそんな鬱屈とした現実世界から幻想世界へ逃げ、3つの試練をクリアしようとする。ただその幻想世界もキラキラしたものではなく、グロテスクであったり汚かったりする。

現実世界では大尉が恐怖政治を行い、反乱する物をことごとく粛正する。全く慈悲が感じられないし、痛々しい。一方かつて存在したという地底王国は、病気も苦痛もない世界。オフェリアがこれから生きていく世界を選ぶなら明らかに地底王国だろう。だから彼女は泥だらけになりながらでもなんとか試練に立ち向かう。

彼女は次々に試練をクリアしようとするけど、次第に大尉の手が行く手を阻む。現実と幻想の境が溶け現実世界が幻想世界を侵食する様子は、まさに戦争や政治という大人の世界・都合が子供の世界や自由を奪っていく様子に重なる。逃げ場が無くなり追い詰められるオフェリアは、フランコ政権下で抑圧された人々を表していると思う。

終わり方には賛否両論ありそうだけど、個人的にはハッピーエンドだと思う。大尉は最後まで自らの欲望しか見せなかったけど、オフェリアは慈悲と威厳を見せた。大尉は赤ちゃんを自分の道具にしかとらえなかったけど、オフェリアは自分の弟として守り続けた。それに大尉の支配は終わりフランコ政権もそれから30年くらいで終わった。一方オフェリアは何世紀も優しさをもって地底王国を治め続けた。ラストの黄金色の地底王国は美しくて、いつまでもそんな理想の王国が存在してほしいと感じた。

印象に残ったシーン:オフェリアが試練に挑むシーン。大尉がオフェリアを追い詰めるシーン。ラストの地底王国のシーン。

余談
・題名にもある"パン"はギリシャ神話の牧羊神です。
・原題"El laberinto del fauno"は「パンの迷宮」という意味です。
亘