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パンズ・ラビリンスのマーチのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.1
ダグ・ジョーンズ特集、最後の作品はベタではありますが、『パンズ・ラビリンス』です。
(詳細は2つ前の『スレンダー』レビューにて)

《 異色の巨人(高身長)パントマイマー
ダグ・ジョーンズ 3本立て 特集 ♪ 》

③『パンズ・ラビリンス』


【レビュー】

《現実逃避の極致による心的解放》

生きていくのって大変じゃないですか。どうしようもなく立ちはだかってくる現実から逃げたくなることなんてしょっちゅうある訳で、何かに縋ってそれを糧に日々を生き抜く。私の場合はそれが映画だったり音楽だったりするんですけど、誰もがそういうのを持ち合わせていますよね。今作の主人公はそれが“空想”だったという話です。

恥ずかしい話ですが、学生時代テスト期間に入ると学校🏫が早く終わったので、家帰って映画とかテレビ📺ばっかり観てたんです。夜になると焦って勉強始めようとするのですが、部屋が散らかっているのがどうにも気になってしまって、片付けを始める…すると謎の達成感と共に睡魔に襲われ、眠り、次の日のテストで後悔するというしょうもない現実逃避を繰り返していたんです。テストの日の午後は友達と前日に観た映画やテレビ等のことをみっちり話し込んでしまい、次の日のテストでまた後悔するっていう…笑

何が言いたいかというと、学生の皆さんは勉強してくださいっていうことではなくて(もちろん勉強はしてください。しといた方がいいです。笑)、人は目の前に逃げ出したくなる現実が差し迫って来れば来るほど自由を求めてしまう生き物なのだということです。私のクソみたいな例えは置いといて、今作の主人公オフェリアは内戦という緊迫した社会的状況と抑圧された家族関係の中で、いつしか美しく荘厳な迷宮の姫👸になることに想いを馳せ、それによる解放(自由)を求め始める。そして最後のチャンスを掴み、あと一歩というところで彼女は躊躇してしまう…この描写が素晴らしくて、夢見心地で駆け抜けていた少女が、最後の最後でちゃんと現実的な理性が働くということを見せつけている。これはデルトロの上手いところで、「理想ばかり追い求めるのもいいが、たまにはしっかりと現実を見極めることも大事だ、理性を失い、他者の犠牲を払ってまで辿り着いた桃源郷に救いはない。」と言われているような気がしました。

そしてその描写を通した上で突き付けられる、儚くも優しい結末。ハッピーバッドエンドとしか形容できないけれど、彼女は確かにあの場所へと辿り着いたのだ。それはこちら側が幸せだったのかどうかを決められることなどではなくて、彼女がキラキラ輝く宮殿の中で生き続け、現実の肉体と精神が解放されたのであればそれこそが救いであり、彼女の願いが成就したということになるのだろう。

でも彼女が永遠(の中)で生き続けるための契機が義父のあの行動しかなかったのだとしたら、それはそれで途方もなく悲しい話だと思う。

非現実を美しく体現する寓話的物語の中に、自制と現実性を端正に描き出している手腕は見事だし、ダークファンタジーの濃度を高めるデルトロクリーチャーズの数々が不気味でありながらどれもアーティスティックで美しい。世界観の作り上げ方は完璧だし、わざわざ現実的な要素を盛り込んでジャンルとして偏ることなく発展させていて、それでいてどちらも絶妙なバランスで軽薄になることなく色濃さを見せつけてくるし、グロテスクさとホラーなスパイスで世界観を1つ高次の段階に押し上げているからスゴい…こういうの作らせたらデルトロに敵う奴はいないんじゃないかとさえ思えるほど徹底された雰囲気の形状が、この作品のキモである。


【p.s.】
一応ダグ特集なので触れておきますが、ダグが演じている手眼の怪物はインパクトがハンパないですね!
「なに悠長に葡萄🍇なんか食べてんだ! 後ろ!後ろ!!ほら、逃げろ!」と声かけてあげたくて悶えましたもんね。笑
あいつが迫ってくるだけでめちゃくちゃ怖いじゃないですか…子どもには見せられませんよ、この作品。
しかもダグ出演作の中で随一ダグらしさが垣間見れるのがあの怪物で、ダグの代名詞であるグネグネクネクネのクリーピーな動きが最も映えていると言っても過言ではないと思います。

カエル🐸とか、妖精🧚‍♂️になる虫とかのクリーチャーの小気味悪くクセになる感じもなかなか良いし、パンの何を企んでいるのか分からない不敵さもキャラクターとして非常に面白い! カエルがゲロリンチョして萎んだのはビックリしたよ〜 笑

あとこの作品、美術はもちろんのこと音楽も作品とピッタリ合ってて素晴らしいし、クリーチャー造形のおどろおどろしさが最高…子ども向けに見えて、実は完全に大人向けなダークで美しく、恐ろしい世界観に拍手👏 やっぱデルトロ好きやわぁ〜♪


【映画情報】
上映時間:119分
2006年 メキシコ🇲🇽 スペイン🇪🇸 アメリカ🇺🇸/監督・脚本 ギレルモ・デル・トロ/キャスト イバナ・バケーロ/セルジ・ロペス/アリアドナ・ヒル/マリベル・ベルドゥ/ダグ・ジョーンズ
/1944年のスペイン内戦下を舞台に現実と迷宮の狭間で3つの試練を乗り越える少女の成長を描くダークファンタジー作品。
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