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パンズ・ラビリンスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.0
 鼻歌を歌う女の子、涙ぐむ少女の姿。第二次世界大戦末期、1944年のスペイン。スペイン内戦終結後もゲリラたちはフランコ将軍の圧政に静かに抵抗していた。おとぎ話が大好きな少女・オフェリア(イバナ・バケロ)は臨月を迎えた母カルメン(アリアドナ・ヒル)と共に、山奥にやってきた。途中つわりに襲われた母親は、きれいな空気を吸うために森の中に車を停める。一緒に森に出たオフェリアが拾った眼球、石像の左目に入れられた眼球はぴったりハマり、口からカマキリが出て来る。駐屯地を指揮するフランコ軍のビダル大尉(セルジ・ロペス)はカルメンの15分遅れの到着に苛立っていた。彼はカルメンの新しい亭主だが、ゲリラの疑いがあるというだけで農夫親子を惨殺するような残忍な男だった。彼に使える小間使いのメルセデス(マリベル・ベルドゥ)は実はゲリラ軍の協力者だった。大尉の元に潜り込んで、フェレイロ医師(アレックス・アングロゲリラ)と結託し、軍に情報を流している。ビダル大尉と違い、温厚なメルセデスにオフェリアは懐く。ある日、ひょんなきっかけから不思議な迷宮(ラビリンス)に迷い込んだオフェリアは、山羊の頭と体をしたパン(牧神)がいて、彼女に魔法の王国のプリンセス、モアナの生まれ変わりに違いないと驚くべき事実を告げる。満月の夜が来るまでに三つの試練に耐えられれば、両親の待つ魔法の王国に帰ることが出来る。その言葉を信じたオフェリアは三つの試練に立ち向かう決心をするのだった。

 デル・トロの第二次世界大戦末期の物語として、『デビルズ・バックボーン』と『ヘルボーイ』に続き、3つ目の物語である本作は、スペイン内戦下の閉鎖空間に子供が閉じ込められる物語として、『デビルズ・バックボーン』と同工異曲の様相を呈す。また左肩にしこりがある少女の主題も、目立たぬように削った角の付け根が切り株状に残っているヘルボーイと非常によく似ている。おとぎ話が大好きな少女は、デル・トロのこれまでのフィルモグラフィのように、数百年前と現代との時空の媒介者として存在する。仕立て屋だった彼女の父親は戦死し、カルメンは仕方なしにフランコ政権の傲慢な権力者であるビダル大尉と結婚し、お腹に彼の赤ん坊を身籠もる。納得の行かない政略結婚、案の定新しい父親と折り合いのつかない少女は、母カルメン以外に唯一メルセデスにだけは心を許す。『ミミック』や『ブレイド2』のように地下深くに張り巡らされた物語は密かな眼球譚として、家族や両親に守られた少女の成長をも促す。今作でも善と悪の描写がやや紋切り型に終始するのは気になったが、中盤以降、自身の側近であるメルセデスに疑惑の目を向けるビダル大尉の真に迫る恐怖の描写が、甘い味付けに陥りがちなファンタジー描写と比較し、実に苛烈で容赦ない。母カルメンになり代わり、オフェリアの代母となるメルセデスの描写、だからこそ女は救えなかった命に向き合い、突っ伏して涙する。戦争と内戦の禍々しき傷跡、たかが女と揶揄された女の哀しき復讐の調べは時空を超えて燦然と輝く。
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