オルキリア元ちきーた

パンズ・ラビリンスのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
3.8
パンズ・ラビリンス
2006年 メキシコ、スペイン、アメリカ合作
ギレルモ・デル・トロ監督
製作に、「ハリーポッターとアズカバンの囚人」「ゼロ・グラビティ」「ROMA/ローマ」の監督アルフォンソ・キュアロンがいる。
日本アニメヲタクメキシコ代表のギレルモ・デル・トロが
「ブレイド2」の監督になって1よりヒットさせた後に作ったダークファンタジー。
この7年後に「パシフィック・リム」、更に4年後に「シェイプオブウォーター」を作っている。

他にも「ルド&クルシ」の製作(監督はアルフォンソ・キュアロン)や「クリムゾン・ピーク」の監督など、色々と忙しいデル・トロ監督。
元は特殊メイク製作アーティストだっただけあり、美術の作り込みに対するこだわりが強い。
グロテスクにさえ感じるほどの「痛いシーン」も、その観察力や描写への執着の賜物で
その美学は「シェイプオブウォーター」でも遺憾なく発揮されている。

強権的で冷酷な男に翻弄されながらも健気に自分の生き方を貫く主人公の少女
それを不思議なクリーチャーが助ける流れや
それと同時進行で繰り広げられる脇役たちの切ないストーリーも
デル・トロ監督の定石の構成。
とにかく多彩で個性的なキャラが立っていて
そのひとつひとつのエピソードだけでも物語が作れそうな厚みは
押尾守はじめ日本のアニメクリエーターや作家から影響を受けていることは充分伺える。

本作に出てくる不思議な生き物、迷宮の門番のパン、不気味な怪物ペールマンは、両方とも特殊メイクアクターで有名なダグ・ジョーンズが演じている。彼は他にも「バッドマン・リターンズ」や「ミミック」「メン・イン・ブラック2」などでも色々なキャラを演じているが、ギレルモ・デル・トロの映画のクリーチャーといえばほぼ彼で「シェイプオブウォーター」の半魚人もダグだった。
長身で細い体型の彼はパントマイムの経験もあるらしく、特殊メイクのせいで殆ど表情のない門番パンの演技は、体や手の動きによる感情がとても豊かだ。この部分は日本アニメよりジム・ヘンソンなどのマリオネットとパペットを融合させたマペット操演を彷彿とさせる。
(…と思ったら、2018年にNetfilixでギレルモ・デル・トロとジム・ヘンソンカンパニーが共同制作でストップモーションアニメで「ピノキオ」を作っていた。さもありなん。)

1944年、内戦が続くスペイン。軍事力で統制しようとする独裁政府から派遣されたゲリラ掃討軍の砦に指揮官として赴任する大尉ヴィダルの元に、かつてヴィダルの服の仕立て屋の妻だったカルメンが、娘のオフェリアと共に訪れる。夫なき後、戦時下を生きるためにヴィダルの子を身ごもり庇護を受けるカルメンは、夫であるヴィダルの機嫌を損ねない様に娘のオフェリアを説得する。
しかしオフェリアは、独善的なヴィダルには警戒心を抱き、孤独な状況に。
砦の家政婦のメルセデスは、そんなオフェリアを気遣いながら、ヴィダルの目を盗みゲリラに参加する弟にも協力していた。

メルセデスもオフェリアも、母親のカルメンも、自分の生きる道を自分一人では選べない環境。
しかし、強権的なヴィダルでさえも、常に父親の亡霊に翻弄される立場。
父の形見であろう懐中時計を肌身離さず持ち歩きながらも
鏡に映る自分の顔に父親の面影を見て、カミソリでその首を掻き切ろうとしたり
ゲリラの容疑をかけた父親を息子がかばうのを見て問答無用に射殺したりと
父への愛憎入り交じる行動を見せる。
カルメンが出産する息子に、ヴィダルはどんな想いを持っていたのだろう?

森の中の前線基地に向かう途中に不思議な昆虫と出会ったオフェリア。
砦までオフェリアの跡を辿って来た虫に導かれ、森の中の迷宮の門番のパンに出会う。
妖精パンは、オフェリアが真の姫かどうかを試すため3つの試練を課すのだが…

父には先立たれ、身重で病気の母にはほったらかしにされ、父とは名ばかりの男には乱暴に扱われ、自分のいる場所が見つけられないオフェリア。
本を読み、物語の中だけが、彼女の居場所だったのだろうか。

地底の王国、地上に憧れ王国を飛び出したお姫様が転生した少女、王国の門番のパン、様々な怪物たち…
荒唐無稽な話を、オフェリアは何の疑問も持たずに受け入れてしまう。

仕立てたドレスを泥だらけにして叱られれば、晩餐会を欠席できる。
ドレスを汚すにはファンタジーの助けが要る。
パンとの約束も、まるで無かったかのように破り、パンの怒りを買ってファンタジーは消えてしまう。
メルセデスと抜け出せば、こんな所から、抜け出せるならファンタジーはいらない?
しかし、唯一の現実との繋がりだった母が出産後に亡くなってしまう。
生まれたばかりの弟を助けるためには、やはり「パンの(地底の国の)助け」が無ければならなかったのか、再度チャンスを得られる。
母が死んでしまえば、もうこんな場所には未練はない。
今度こそ地底の国へ行きたい!
ヴィダルの大事な、赤ん坊の弟を人質にとれば、ヴィダルだって言うことを聞いてくれる?

妖精はヴィダル達人間には見えない。
人間の前では魔法の根っこも動かない。

すべては、オフェリアの紡いだファンタジーだったのだろうか
辛い現実と、甘い夢の世界の冒険を行き来するうちに、やっとオフェリアが辿り着けた場所は…