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ドラえもん のび太の魔界大冒険のkasmiのレビュー・感想・評価

2.5
旧作の方が評価されがちなので見てみた。

ノリとテンションがダメだった。
けどこれが本当の(元々の・原作に近い)ドラえもんなんだと思う。
旧声優時代は私は幼稚園生だったので、声優交代の記憶がうっすらあるが、慣れ親しんだドラえもんといえば「わさドラ」の方だ。
単に声が違うだけでなく、みんなの性格もストーリーのトーンもドラえもんとのび太の関係性も、全てが違う。
特にキャラクターは、のび太もドラえもんもしずかちゃんも、良くも悪くもみんな今よりものすごく頭が悪そうな言動をしていて何回も笑った。

リメイク版と見比べて一番違うのは、全体のテンポ感。
リメイク版は、複雑なストーリーと多くのシーン、ドラマチックな急展開が短い時間に詰め込まれた印象が強かったが、原作の方はたっぷりゆっくり尺を使っている。なかなか魔界に行かないし、魔界についてからも戦闘は最後の最後まで始まらず、歩き回って城を目指すまでの冒険がメインだ。
また、原作では「魔法」というものに対して「未知の不気味で恐ろしいもの」という感情が強調されている。満月博士の屋敷もまるでホーンテッドマンションのようだし、魔界の植物や生物の気味悪さ・計り知れなさも丁寧に描写されていて、次に何が起こるかわからない、お化け屋敷にいるような恒常的な不安が常につきまとっている。メドゥーサのビジュアルなんかトラウマ級に不気味で気持ち悪く、子供の頃に見ていたらなかなか衝撃的だったかもしれない。
なるほど、こういう不気味さを評価した人たちからしてみれば、リメイクのマジカル⭐︎な世界観と過剰にドラマチックなストーリーに違和感を感じるのも当然かもしれない。反対にリメイク版が大好きな私にとっては、「泣けない」と思ったし、全体的に退屈で盛り上がりに欠け、ボス戦もドラミの無双展開も唐突だと感じた。終始あっけらかんとしたテンションであることにも拍子抜けした。リメイク版のような絶望や無力感はなく、なんやかんやあって地球を出ることにしてわーきゃー冒険して魔王を倒して地球を救って、あーよかった、めでたしめでたし!という感じ。
みんなが捕まっちゃった、というあのものすごく悲しいシーンも、「こんなに待ったのにだーれもこないなんて、みんな、捕まっちゃったんだなぁ」「どうしようか」「どうしようったってそんな、どうすることもできないだろー!」「、、、ん?あっっタイムマシーンを使えば取り返しがつくぞぉ!!」みたいなテンションだったので、おいおい、、と思ってしまった。

でも、それが藤子・F・不二雄のドラえもんなんだ、とも思う。
人間ドラマあれこれに主軸が置かれているわけじゃない。
ドラえもんの最大の魅力は、子供心の「こんなことできたらいいな」から始まる夢物語だ。誰もが考えたことのあるような都合のいい妄想の世界を、大人の知識と創造力の補強によって、ものすごく広い世界として見せてくれるところだ。
だから、こういった長編映画でも、「こんな世界あったらいいな」の夢の世界を見せるという方向に行くのは必然で、だから「魔界」そのものに対するイメージとか世界観を膨らませ、それをドラえもんたちが探検するというところに重点が置かれるに決まっている。

最近のドラえもん映画には、勇気と冒険、友情と絆、涙と別れ、教訓のようなメッセージ、がつきもので、私も当たり前にそういうものだと思っていたが、それはもしかしたら商業的な進化に過ぎなかったのかもしれない、と気づかされた。私はいつからドラえもんの映画に「泣き」を求めていたのだろう。

それからやはり、ドラえもんがめちゃくちゃ無能なぶん美代子さんだけがものすごく勇敢だという印象を受けた。リメイクと比べても明確に「ヒロイン」として描かれてたと思う。
旧作だとのび太が美代子さんに惚れてるという描写があるのに対し、リメイクだと猫姿の美代子さんにドラえもんが恋してる感じに変更されてるのが興味深い。
リメイク美代子さんの演技が棒読みだとよく言われているけど、あのさっぱりしたリアルな演技が美代子さんを絶妙に萌えキャラから遠ざけているように私には見えるので、なかなか良いと思うんだけどなあ。
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