マンボー

48時間のマンボーのレビュー・感想・評価

48時間(1982年製作の映画)
3.6
雑踏や裏町が主な舞台だが、数年前に撮られた「タクシードライバー」のニューヨークではなく、かつて「いちご白書」や「ダーティーハリー」も撮影された、西海岸はロサンゼルスの北、サンフランシスコの街が作品の舞台。

西海岸の街の雑踏や路地裏、暗闇の中をドイツ系で大柄金髪、身なりに無頓着で無骨なニック・ノルティ扮する刑事と、完ぺきにオシャレな高級スーツを着こなす口八丁な囚人におさまった若きエディ・マーフィーの二人が、それぞれの理由で、非情で凶悪、犯罪者仲間の殺人すら厭わぬ脱獄犯を追うストーリー。

何となく観れば、主演二人の個性に目が留まるものの、ストーリーはそれとなく追うだけで終わってしまうかもしれない。特にどんでん返しがあるわけでもない。でも、本作には脚本家でもある監督のウォルター・ヒルを含めて、脚本家仲間四人が名を連ねている。リアリティとドラマチックな展開とを両立させるために、複数人がアイデアを出し合い腐心したらしきプロットは派手さはなく、やや印象には残りにくいものの、見返せばどうにも言いしれぬ苦労の跡と工夫とがうかがえる。

それでも何より本作はキャラクタームービーだ。

まず、本来は細かく偏執的で神経質、知的職人肌なイメージのドイツ系アメリカ人のステレオタイプを覆して、ニック・ノルティの役柄は、世馴れていて刑事としての実力はあるが、恋人との関係をコントロールできず、身内の刑事連中からも苦り顔を向けられて、敬遠され気味の一匹狼。頭は悪くないし腕も立つ、誰からも舐められない体躯の持ち主だが、場末の風俗に溶け込み幸運の女神に背を向けられた孤独な男。

一方、相棒は囚人。学はともかく、機転が利いて、口も立つけれどペラペラ話すだけではなくて、奇妙なほどに肝が座っていてクソ度胸がある。それでいて一流のスーツを着込み、洗練された振る舞いもできるやや細身の黒人青年。

ドイツ人と黒人のステレオタイプを裏切るキャラクターの二人が、はじめは互いをビジネスライクに利用し合うだけだが、刑事が囚人を48時間のタイムリミットはあるものの拘置所から連れ出して、脱獄囚を追ううちに、本当に少しずつ互いを認めあってゆくストーリー。

70年台を思わせるサンフランシスコの薄汚れた街が嫌いじゃない。自分の心のうちを隠して生きている不器用な大男が嫌いじゃない。華やかさに欠けてはいるものの、ぎりぎり起こりえそうな脱走と追跡の捜査劇が嫌いじゃない。

エディ・マーフィーのための映画でもあるけれど、それ以外の渋みや侘び寂びが彼のことを引き立てている。安っぽさが抜けない取るに足らないB級刑事映画らしさの底には、緻密さには欠けた、でも確かな思索の跡が残るストーリーと、この映画監督が見知った裏街の情景が活写されていて、そこに気付けばエディ・マーフィーだけの映画ではないことに気が付くことができる。
そして見事にハマった主演二人の個性のまるで違うキャラクターのハーモニーが絶妙の効果をなして、十把一絡げの駄作の烙印を飛び越えて、21世紀もほぼ20年が過ぎ去った今でも鑑賞に耐える、どうにも味な作品になっていると思う。