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現代人のryosukeのレビュー・感想・評価

現代人(1952年製作の映画)
3.9
テキパキとした人物の所作に口調、キビキビと小気味よく繋がれていくカット構成のリズムに乗っているだけで気持ちいい。会話劇でありながらほとんどのカットが細かいアクションで満ちており、普通の映画なら間に挟まる間延びしそうなカットは徹底して排除されることで、次々にシーンが転換していく語り口は娯楽映画の一つの理想かもしれない。
バレエの写真を見られた泉(小林トシ子)、小田切に小遣いを渡そうとして不愉快な顔をされた萩野(山村聡)、岩光が倒れていることに気づいた小田切(池部良)等、「焦る」演出がちょっとわざとらしいのは若干目に付いたけど、基本的には役者陣も魅力的で良質な作品だった。
多々良純の下衆な面と口調が癖になる。スラっと足の長い池部良も、ニヒルな表情が魅力的な美青年を好演。
男を手玉に取る山田五十鈴の人を食ったような表情も記憶に残る。最初はそんなに魅力的かねと思ったが、段々見事なファム・ファタールに見えてくる。池部をパシッと叩いて踏み台にするシーンなんて彼女のスタンスを端的に視覚化している良いシーン。
山田五十鈴がホステスをしている銀座のバーの奥にある細い通路は、運命に導かれ退っ引きならない状況に追い込まれていく登場人物の舞台として相応しい印象的な空間となっている。山田が言葉を尽くして池部を罵倒する描写が愉快。
バーにおいて、池部、多々良、山田演じる三悪人が画面手前、中央、奥に配置され、それぞれ紫煙を燻らせるカットが良い。酔いから醒めると隣で血を流す多々良に驚いた池部は、やはり例の通路に迷い込んでいく。細い階段を駆け上がって鍵の閉まったドアに阻まれる姿も、遂に袋小路に陥った優秀な青年の末路を的確に示す。
ニヒルに見えて内に純な熱情を抱えている池部の想いは燃え盛る課長室へと見事に結実し、妻と愛人を失いこれから職や地位も失うであろう山村も、彼の人生の現在地のメタファーのような黒い煙の立ち込める寂れた田舎の線路へと辿り着く。
タイトルの「現代人」が意味する「アプレゲール」という二項対立的で雑なレッテルを貼られながらも、その実冷酷で無軌道な若者とは程遠い真っ直ぐな愛情を示した池部良がラストにおいて見せる顔は見事だった。
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