Mikiyoshi1986

美女と野獣のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

美女と野獣(1946年製作の映画)
4.1
本日10月11日は20世紀フランスの芸術分野においてマルチな才能を発揮した天才ジャン・コクトーの命日。
没後54年目に当たります。

コクトーが初めて映画制作に着手したシュールレアリズムの怪傑作「詩人の血」から約15年。
フランスはナチスドイツの占領から遂に解放され、それまでの芸術への抑圧からも解き放たれ、
戦後コクトーが真っ先に手掛けたのは世界的な恋愛ファンタジー「美女と野獣」の映画化でありました。

詩人としてのイマジネーションをぎゅうぎゅうに詰め込み、
撮影から装飾美術、衣装、更には野獣の特殊メイクに至るまで、渾身のスキルで比類なき幻想譚を創造したコクトー。
逆再生やスロー再生の映像トリックから始まり、壁から燭台を支える無数の腕、動く彫刻、水差しを注ぐ手、魔力に覆われた城を人力で表現する映像詩はモノクロの世界との見事な調和を果たします。
ちなみに監督デビュー前のルネ・クレマンも撮影のアシスタントとして参加。

求婚者アヴナンと野獣の二役を演じたのは長らくコクトーの寵愛を受け続けた美男子ジャン・マレーであり、
野獣役では特殊メイクを駆使して悲哀に満ちた見事な表情を魅せます。
ギラギラと光る瞳、指から立ちのぼる煙、鹿の気配が気になってピクピク動いちゃう耳など魅力も満載であり、
美しきベルをも凌駕する彼の存在は以降「野獣」の雛形としての役割を大きく担ったと云えるでしょう。

戦後傷ついたフランスに必要なのは逆境から脱け出す夢であり、すべてを擲つ信頼の愛であり、見た目に惑わされず本質を見抜く審美眼であると、本作を通して全フランス国民を勇気づけたコクトー。
このファンタジーの傑作は以後コクトーの代表作として認知され、彼もこの成功によって本格的に映画分野へと足を踏み入れてゆくことになるのです。
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