Masato

ボーイズ’ン・ザ・フッドのMasatoのレビュー・感想・評価

ボーイズ’ン・ザ・フッド(1991年製作の映画)
4.6

ゲットー地区の暮らしの厳しさをありのままに描いたあまりにも切実な社会派映画

よくヒップホップを聞くからこの現状はよく分かる。ゲットー地区で暮らす若者たちは、ラッパーになるかNFLかNBAになるしかないと言われている。それほど、道が狭まれているのが現状。

そして、ギャングとの因縁があるとたとえ有名人になろうと、標的にされたら死の危険だってある。2pac、ビギーなどの大御所も、これから大飛躍を見せるであろうpop smokeも殺された。ラッパーの平均寿命は20代前半。常に危険が伴うため、銃の所持でたまに捕まる。ボディガードを雇わなければまともに街はあるけないという始末。

売れたラッパーたちはそれぞれ生まれ育った地元で地域貢献をする。ニプシーハッスルは、様々なお店などを作り、IT関係の人たちとも手を結び、黒人コミュニティの将来の選択肢を広げるために多大な活動をしていたが、残念なことに銃撃され死亡。

本作に出演しているアイスキューブも、ストレイト・アウタ・コンプトンで描かれたように、アメリカの中で最も殺人が多い地区のコンプトンで育ち、ギャングスタ・ラップを世に広めた男。黒人差別が酷く、歩いてるだけでも常に警察に悪質かつ理不尽な取り締まりを受けられるシーンがあり、つい数十年前までは、アメリカは黒人にとって最悪の社会環境だった。今でも、スマホの普及で様々な悪質な行為が世界に発信され、その状況は抜けきれていない。

そんな状況のなかで、本作の主人公は、大学へ通う母親と不動産を営む父親のもとに生まれ、道を決して外さぬように育てられる。母親がこのままではグレてしまうという危機を感じ、父親に託され、無事良い子になったが、暴力や麻薬、ギャング、犯罪が日常茶飯事のゲットー地区では常に死と悪の誘惑が蔓延る。

ゲットーでは、普通に育つことも難しいというのがものすごく辛い。本作でも、主人公の周りは麻薬中毒者やギャングだらけでまともに歩けやしない。銃撃音と警察ヘリの音が毎日。暴力が日常であれば、その人間たちも暴力が当たり前となり、簡単に他人に対して暴力をしてしまう。そこに銃があれば、一瞬で身体に風穴を開けてしまう。

そして、白人コミュニティからの圧力がある。だから、主人公トレの父親は不動産を営み、理不尽な土地代を防いて黒人コミュニティを守ろうとしている。

終盤のシーンは本当にいろいろなことを考えさせられる。一瞬の過ちで一生苦労すること。怒りに身を任せることはこの銃社会では絶対にいけない。銃社会というものが如何に恐ろしいもので、今後絶対に取り締まっていかなきゃならないということ。

「世界中の暴力が報道されているのに、俺らの街の暴力は報道されない」

これがあまりにも切実だった。当時は黒人コミュニティの犯罪は誰も取り上げなかった。それは、白人社会で遠ざかれていたからだが、現代では情報入手の手段が多くなり、あらゆる視点から報道されるようなった。だが、完全ではなく、未だにその状況は改善されず、未来ある若者たちの命が脅かされている。

去年のBLMであり方が大きく変わった。アメリカは絶対に突き放さず、あらゆるコミュニティの安全と平和を実現させなければならない。しかし、今はアメリカ各地で土地の価格が高騰しており、黒人だけでなく、貧困層が非常に苦しい思いをしている。そうなると、犯罪やギャングが拡大していくことは間違いない。今でも、本作は見られるべきである。

黒人だけでなく、最近増えてきたヒスパニック系のコミュニティも、貧困にあえぎ、ギャングや暴力が日常化している。そのため、普通の少年少女も残虐な殺しをするニュースもあった。環境を改善することはとても大切。

映画的には、90年代特有の青春ドラマやコミカルな掛け合いなどがあるため、非常に見やすい。ブラックミュージックが多用され、当時のファッションも出てくるため、とにかくアガルことは間違いない。今となっては普通かもしれないが、当時のライフスタイルを一人の青年を通して様々なキャラを作り描き出したこと、それを見れたことが素晴らしかった。

傑作。
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