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ミッドナイト・イン・パリの景のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

1920年代にタイムスリップするという、小説家志望の男の不思議な体験を描くロマンス。オープニングからパリの街並みが美しく切り取られているのが、ウディ・アレン監督らしい。監督の映す光景は毎回あざといくらいにお洒落だけど、私はそこが好きだな。パリは特に思い入れのある街というわけでもないけど、この作品でパリの光景を眺めるのは楽しかった。そしてタイムスリップに関しては掘り下げないところも潔くていい。それより零時の鐘が鳴ると登場する馬車が『シンデレラ』のようで可愛いよね、と思えたらオッケーみたいな空気が好み。キャラクターも過去の住人が多種多様な芸術家ばかりで楽しかったな。役者がまた豪華でいい。主人公にはイライラさせられたし好きにはなれないけど結末は好きだし、なんだかんだで嫌いな作品じゃなかった。

印象に残っているのはやっぱり1920年代の風変わりな芸術家たちなんだけど、ヘミングウェイやダリは特に魅力的だった。ヘミングウェイは初登場時のギルとのやり取りがいい。

「読んでくれます?」
「君の小説を?」
「400ページほどですが、切望してます。誰かの意見を」
「君の小説は不快だ」
「まだ読んでない」
「下手な文章は不快、上手でも嫉妬で不快。作家の意見など聞くな」

このスタンスが明確で素晴らしい(終盤に結局読んでたのは笑ったけど)。ダリもエイドリアン・ブロディが演じてるのもあって一瞬の出番なのに強烈でした。ギルの小説を「空想科学小説」と称していたスタインもいい。

ギルに関しては、まずイネズとは価値観も感性も合わないのになんで婚約しとんのや、と序盤の時点で疑問になるくらいに相性が悪い。まったく噛み合わず互いに嫌な部分だけが垂れ流しになったような地獄の様相を呈しているから、二人を見ているとイライラしてしまう。特にギルは非現実的な手段で得た知識でポールを相手にマウントを取ったり、アドリアナを手に入れようとする情けない部分がある。振られたと思ってたのにアドリアナが自分に惹かれていたことを知り、イネズのピアスを盗んでアドリアナへのプレゼントにしようとするシーンなんかもうひっでえ! しかしアドリアナと1890年代へ遡ったことで、懐古主義が行きすぎて現代の魅力に気付こうともしなかったギルもやっと現実に目を向ける。序盤のポールの批評は嫌な感じだったけど、彼の指摘は当たっていた。しかしギルが元の時代に戻ろうとした理由に、当たり前に受けられる医学の進歩の恩恵を挙げていたのが面白かった。確かにこれは幻想を打ち砕くに余りあるほどの切実な現実の威力だなと。映画がロマンティックに撮られているから尚更。

イネズとは合わないこともイネズが浮気していたことに気づかなかったのも現実逃避していたからだったけど、イネズも不倫に夢中で夜に出歩くギルを疑いもしてなかったからお互い様なんだなこの二人は(父親がギルを怪しんで探偵に尾行を依頼するのはもっともだと思う)。これは別れるしかない男女が、ようやく別れる話だった。ガブリエルとは上手く付き合っていけるんじゃないでしょーか。少なくともイネズとよりは。
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