ninjiro

blueのninjiroのレビュー・感想・評価

blue(2001年製作の映画)
4.2
椅子の四本の脚に付けられたプラスティックのキャップが、教室中に隙間なく並べられた床材の上を滑る時、スチール製の脚を伝わって座面の薄い合板を通してお尻に響く感触。
戸車やレールの劣化によって本来想定された室内騒音に対する遮蔽性能を失って、始業前の開閉の折には必ず、手や腕の骨をを通じてその凹凸感を脳に伝導する重い四枚の引戸。
上塗りされたニスの匂い。結果点々として机に残る不可侵域・黒い穴によって侵食されても、まだ辛くも残された自分のスペース。黒板周辺に漂う粉っぽい匂い。大袈裟で奇矯な笑い声。詰まらない子供。詰まらない大人。
高校生にもなったら、自分の場所は自分で確保しなくちゃならなくて、不細工な顔を晒して存分に泣くのにも準備が要って、「ツン」と感じた鼻の作用を先送りして何処か誰もいない所、自分がそこに居ても不自然じゃない場所を探し当てて、自分のものとしてから。
普通の顔をしていても、それは自分が自分の領域にいるという自分が勝手にこさえた大前提からまだ逃れ得ていないだけで、例えば携えた弁当が弁当の体を成していれば中身がコンビニ弁当の具材であっても同じであるように、平常であることを努めて心の頂きも心の底辺も小さく鼻を鳴らすことで精々平均点に納めて。
詰まらない自分の小さな心の地図は、そんな小さな世界でも精一杯で、小さなコンパス指す先が世界の外に出て行こうとする切っ掛けは、全く青い空の下の如くでなくともよい。
やましさや、恥ずかしさ、人には言えない心に秘めた気持ち悪さや物珍しさ、それと同じように安易に見咎められる、持って生まれたこの身体全体にごろごろと音を立てて蠢く、市井の人が勝手に決めた時間感によって義務化された気怠い推進力よ。
今の私はそんなものとは関係なく、身体は何処かに置いてきたままで、心は大体が暗い青色の中にいて、皆んなはどう折り合いを付けていくの?
人が人を単純に好きになるということに。
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