湯っ子

ブエノスアイレスの湯っ子のレビュー・感想・評価

ブエノスアイレス(1997年製作の映画)
4.6
狂おしいほどの恋情があふれ出す瞬間を見た。
物語はいびつ。どうやら、制作時に一悶着もふた悶着もあった作品らしいから。
だけど、全編に渡る、驚くほど心をつかまれる映像と、全身が叫んでいるような彼らのありようから目が離せない。
どうしてそんな生き方しかできないの。
どうしてそんな愛し方しかできないの。
いつも人を食ったような、ふてぶてしい態度をしているくせに。
でもそんな彼らがいとおしくて仕様がなくなる。

今はなきシネマライズでこの映画を観た時には、映像の魔術と、頭から離れないタンゴに酔いしれながらも、なにか釈然としない気持ちで劇場を出た。ぼうっとした頭で街を歩いた。渋谷は茜色だった。
そんなふうに、映画の内容はあまり覚えておらず、観た後の感触のようなものだけが記憶に残っていたので、また観たいと思いつつそのままだったこの作品を再鑑賞。
あらためて、ウォン・カーウァイの変幻自在な映像世界に魅了される。タンゴの音色が心の奥まで差し込まれるように響いてくる。
そして、ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)、ふたりが並んでいるだけで胸がいっぱい。

両手を怪我して使えないウィンをかいがいしくお世話するファイ。ああ、私はどちらに感情移入したら良いのかしら?…レスリーにお世話してあげる?トニーにお世話してもらう?…うーん、うーん、選べない!笑
幸せそうなふたりも、相手が好きすぎてケンカしちゃうふたりからも目が離せない。
共同キッチンでのダンスのシーンは美しすぎて泣きたくなった。

ストーリーはやはり釈然としないところもあるのだけど、恋愛って全部がきちんと区画整理されるわけじゃない。空白の部分には、観客が自分の好きなように物語を作れば良いのだ、と惚れた映画には評価が甘くなる。
湯っ子

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