Cisaraghi

ブエノスアイレスのCisaraghiのレビュー・感想・評価

ブエノスアイレス(1997年製作の映画)
4.5
香港を出て南米大陸に飛んだ王家衛。地球の裏側まで行った甲斐があったというものだろう。香港にはない広大な空間の広がりがここにはある。白黒なのに深い紺碧の空の奥行き。吸い込まれそうなイグアスの滝の怒濤。黄昏色の街のサッカー。たゆたう黒い川面。大陸の果て、ウシュアイアのエルクレール灯台。
 自由に作ることが出来る部屋の内部は、緑と赤を基調としたアートとしての創作作品。ランプ、毛布などの小物のひとつひとつ、服までも込みだ。KODAKの色という感じ。

最初から最後まで、完全に動画写真集になっている。どの瞬間を切り取っても、隙なく写真作品として成立していて、一瞬として凡庸なショットやダメなショットがない気がする。ここまで完璧に写真として完成されている映画は見た記憶がないと思った(記憶にないだけかもしれないけど)。素晴らしい。それなのに、作為をほとんど感じさせないのがまたすごい。

でも、写真集にドラマと音楽と時間が加われば、物体と生命体くらい違う。画面の中で繰り広げられる二人の男の痴情のもつれ。アルゼンチンらしい暗い情熱を帯びたピアソラの調べ。赤い光線と緑の光線。眩しい黄金の光。Emotional なことこの上ない。もうここにはストーリーらしいストーリーなんて必要ないのだろう。

最初の滝のところで流れるククルククパロマは最高だし(もうちょっと聞きたかった!)、夜の街の雑踏のところあたりに流れるザッパの曲も大好きだ。

そして、疾走する台湾の夜景に意外に合うHappy Together。英語タイトルもHappy Together。中国語タイトル「春光乍洩」はどういう意味なのだろう?地理好きとしては、「ブエノスアイレス」という邦題は相当いいと思う。

トニーレオン、この役にはかなり抵抗があったようだが、出てくれて本当にありがとうである。イガグリ頭が三島由紀夫に似てると思ったのは私だけではなかったようだ。それにしても、男同士の痴話喧嘩は荒々しいな。

音楽の魅力を増幅させる装置として映画を撮ったっていいじゃないか、てなことを思うウォンカーウァイ作品s。そういう映画好きだ、というか、だから映画好きなのかも。
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