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オルエットの方へのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

オルエットの方へ(1970年製作の映画)
5.0
【最強《ゆるキャン△》映画】
北千住ブルースタジオのジャック・ロジエ特集に行ってきた。今回は2時間半あるとのこと。ガールズトーク2時間半も聞かされて本当に面白いのだろうか。

しかも、原題を確認(Du côté d'Orouët)すると明らかに『失われた時を求めて』1巻のタイトル《Du côté de chez Swann》から来ている。ハードなのでは?と身構えていた。

しかし、これが今年ベスト級の大傑作だった。

話は、パリの仕事場から始まる。退屈そうに働くOL。フランス人はバカンスシーズン間近になると「どこ行く?」「何する」とソワソワし始めるもの。このOLも例に漏れずワクワクしている。そして9月、バカンス開幕!女子友2人と徒党を組んで冒険の始まりだ!

ジャック・ロジエはふと思い出したかのようにプルーストのオマージュをやり始める。いきなり第四の壁を破り、女が、「この香りを嗅ぐと幼少期を思い出す」と語り始めるが、ここでもう『失われた時を求めて』要素終劇だ。全く、過去や思考実験により生み出される哲学云々も、サロンや美術云々もなく、ひたすらにガールズトーク、ゆるキャンを映すだけに徹している。

そして、このガールズトークとゆるキャンのフルコースが涙出るくらい面白かった。

日本人はバカンスで旅行に出ると、やれ買い物だ、やれアクティビティだと大忙しだが、ここに映る女子ーズは、何もしないのだ。

海があるのに「今日はだりーから外行くのやめない?」と言い始め、干物になったり、「私デブるからカロリー気にしているの。ほらこの本のカロリー表示見てよ!」と言いながらがっつり朝飯を食い、夜食でシュークリームを貪り食ったりする。酒も飲んでいないのに毎晩ドンチャン騒ぎ。「オルエット!オルエット!」って叫びながらダンスし始めたりするのだ。

日本人が考えるバカンスとはかけ離れたアンニュイさ。脚本などないかのようなホームビデオ感に野郎の私はドキドキしてしまう。

そして、転機が訪れる。


やあ!とエロい目をしながらヒョロ男が仲間になりたそうにこちらを見ているのだ。

なんと、女子ーズの一人の会社の同僚だったのだ。

彼は「奇遇ですな。まあなんかの縁だシードルを呑もう」と迫りよる。明らかにストーカーキモ男だ。そんな彼を女子ーズが弄び始める。ヒョロ男は、最初こそ透かしているが、明らかに緊張しており、「オルエット」を「オッオッゴボゴボ」と全く発音できていない。カジノに連れて行こうとしても、カジノ会場が廃墟だったりと全て空回りで追い詰められていく。そして、遂に嵐で彼のゆるキャン会場が粉砕玉砕された時、完全に力関係が逆転するのだ。

女子ーズは徹底的に男を弄ぼうと、塩対応しまくるのだが、このヒョロ男、M&粘着マン故しきりに迫りよる。

こんな果てしない闘いを、心洗われるような絶景を前に繰り広げられるのだ。すっかり、心奪われた。

もちろん、『アデュー・フィリピーヌ』に引き続き、ビザールなミニエピソードも満載。

これは実際に映画を観て確かめて欲しいのだが、やたらと鰻と闘います。劇中20%近くは鰻との死闘となる狂った描写に腹筋崩壊するでしょう。

ただ、起承転結も崩壊しホームビデオにしか見えない映画『オルエットの方へ』。ラストは胸が締め付けらるほど切ないのだ。これは、バカンスの終わりというサザエさん症候群に近い切なさなのだが、ジャック・ロジエはさらに一歩踏み込んで、失われた時を求める際に抱く感傷的気持ちを捉えた。

あっ、プルースト要素活きてた!

って訳で夏休みまであと2ヶ月に迫った今オススメな大傑作でした。土曜日にもかかわらず、観客が10人くらいしかいなかったので、是非北千住ブルースタジオに来て下さい!
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