けーはち

サイコのけーはちのレビュー・感想・評価

サイコ(1960年製作の映画)
3.2
シャワー中に美女が殺されるという定番のシチュエーションの開祖。ヒッチコックによる、サイコ・ホラーの原典!

★定番中の定番、「親の顔よりも見覚えのある」とでも言わざるを得ない、「シャワー・シーン」。それに伴う緊張感を煽る悲鳴のような弦楽隊の劇伴は、本当に素晴らしい。思いのほか裸や殺傷場面、鮮血の飛び散りなどは見えないが、それでも裸のシーンは替え玉のヌード・モデルを使ったというのだから、当時としては挑戦的なシーンだったのだろう。

★もちろん、斬新さはシャワーだけじゃない。冒頭の空撮から部屋の中に繋ぐカメラワーク編集や、会社の4万ドルを盗んだOLが主人公かと思わせ追跡してくる警官などで危機感を煽っておきながら割とすぐ死ぬミスリードは、新しい驚きを求めてきた観客を楽しませるための斬新の塊みたいなもの(4万ドルは、ヒッチコックでよく言われる、「マクガフィン」)。

★本作の表題であるサイコ──精神の描き方も執拗にして丁寧だ。OLは“魔が差す”という偶発的狂気を発して金を盗んでしまい、それが逃亡先で本物の深く重い狂気を抱えた人間と出会った結果リアル狂人が勝ってしまうという悲劇が生まれる。リアル狂人がそこでいかにも狂った感じを醸すために出てくる「剥製が趣味」「母親に異常な執着を見せる」など、そして母親は実は──というオチも今となってはあまりにも定番ネタで、納得の安定感すらある。安定感のあるホラーって評するのもおかしな話だが。

★原典ゆえか、現代人には冗長というか、「屍体処理とかバスルームの後始末まで全部見せる必要ありますか?」とか、「その異常心理の部分を口頭で全部説明しないとダメですか?」なところは、まあまあ、あるにはあるんだが……狂気や過激さを増す一方のホラーの古典に立ち返って観てみるのも、シンプルな骨子みたいなものを感じられて良いのでは。