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ヘヴンズ ストーリーのpanpieのレビュー・感想・評価

ヘヴンズ ストーリー(2010年製作の映画)
4.0
TSUTAYAで見つけた時あらすじを読んで強烈に観たいと思った。
新作だったけど心の中で観たい気持ちが我慢できずついついレンタルしてしまった。
そして帰宅後再生。
2時間観た後それが〝上巻〟であった事に気付く。
「え?続きがあるの?」
幸運にも偶然上巻をレンタルした訳だが再生後21時を回っていたのに自宅から近いTSUTAYAへ〝下巻〟をレンタルする為に車を走らせた。
観たい!
どうしても続きが観たい!
こんな事は滅多にない。
強烈に、猛烈に引き込まれてしまった。
掴まれたと言ってもいい。

既視感。
これ、観た事ある。
昔WOWOWでやってないかな?
絶対観た事がある!と強く断言できる程強い既視感を感じた。
柄本明が泣いている所も冒頭の人形も。

あの人形は正確には関節球体人形というそう。
YouTubeでホラゲー実況がを見るのが好きな娘が知っていた。
今にも動き出しそう。
艶かしく美しすぎて怖い。
冒頭でもラストでも人形遣いの方が操る人形はまるで生きているかの様で表情もその時々で違って見える。
一人の人間が一体の人形を操っているのではなく二人の人間に見える時があってどきっとする。

出ている俳優が凄くて登場する度に驚いた。
佐藤浩市がこんな役で出てる!から始まって津田寛治や根岸季衣、嶋田久作。
僅かしな登場だが映画に厚みを持たせている。
他にもよく見かける俳優多数。

あの廃墟が凄かった。
やはり炭鉱跡地らしい。
かつて炭鉱で栄えたアパートの廃墟だけが残りやがて全てをなかった事にする様に緑が茂り人間の痕跡を消し去って行く。
時々アニメーションになる鳥が印象的だった。

特に理由もなく殺した男。
その男に妻と子供を殺された男。
家族を殺され犯人は自殺し復讐したくてもできない少女。
警察官なのに裏の仕事をする男。
その警察官の拳銃を奪おうとし撃たれてしまった男の家族。
殺した人間にも家族がいて殺された人間にも家族がいる。

1999年光市で妻と娘を殺された夫が犯人を殺してやりたいと涙ながらに TVで語った姿が脳裏に焼き付いていて映画を観ながらその姿を思い出した。
今作ではそれを彷彿とさせる事件が描かれている。
この事件を中心に様々な人物の思惑が絡み合っていく。

9章に分かれていてそれぞれにタイトルが付いているのでドラマを見ている様で意外と長さは気にならなく観やすかった。
5章までは主要登場人物それぞれの物語で引き込まれたのだけどそこから先が中だるみしてしまった印象。
被害者と加害者の向かうべき所はここで良かったのか。
やはりこれしかなかったのか。
私はどういう結末を観たかったのか、どういうラストだったら納得できたのか、自分に問うてみたけど答えは出せない。
過去を忘れて許すとしたら偽善だし復讐を果たすとしたら想像できなくてリアリティに欠ける様な気がした。

山崎ハコ演じる恭子は何故ミツオを養子をにしたのだろう。
若年性アルツハイマーが進行し次第に分からなくなり自分一人で生活できなくなるから?
ミツオの状況に漬け込んだの?
逆に純粋にミツオの不幸な境遇に同情して考えた末養子という決断に踏み切ったの?
利用されてる?と疑心暗鬼になりながら懸命に世話をするミツオは頼る人もなく恭子から離れられなかっただろうしお母さんの様に慕っていたし理解できる。
ミツオの苦しみが画面から伝わってくる。
だからこそじゃあ、あんたなんであんな事したの?と言う問いが口をつく。
でもあんな事しなければ絶対に出会う事のなかった二人。

「ねぇ、神様っていると思う?」
両親と姉を殺されたサトが問いかける。
サトが復讐したかった家族を殺した犯人が既に自殺してしまって今も小さかった頃の哀しみや苦しみ、憎しみを抱えたまま成長しやがてトモキを見つけた。
サトはトモキにぶら下がったまま操っている。
もっと言うとトモキを追い立てて復讐に駆り立てようとする。
自分の果たせない復讐をトモキが復讐する事で満足する為に。
トモキは束の間幸せを掴んだのにサトの出現でまたあの〝時〟に引き戻されてしまった。
被害者側の遺族は苦しみを抱えたまま年月だけが過ぎ去って自分が年老いても抱える苦しみ、憎しみは変わらないのかもしれない。
神様なんていない。
でもラストはあれで良かったのではないか。

人が殺されまた新しい命が産まれる。
実際の出産シーンに見えた。
劇中でお腹を見せるシーンがあるのだけどくっ付けたりしていたら生お腹は見せられないと思ったしまさか当時本当に妊婦で出産したのでは?と思う程リアルだ。
江口のりこさん懐かしい。
そう言えば「時効警察」でもひょうひょうとしていたな。


毎日理不尽な事件が起こる。
罪もない人が訳もなく無防備に殺される。
殺された側の遺族の苦しみや哀しさ、憎しみを長谷川朝晴の目の演技で感じた。
4時間38分はこの作品の空気感を出す為に必要だったかもしれないと2回目通して観てそう思った。
凄いものを観たようでもあり、でも役者の演技が素人並みに下手にも見えたり洋画には出せないこの独特の他にはない空気感を見せてもらった。
観終わって心の奥にずしっと来た。
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