荒野の狼

アバターの荒野の狼のレビュー・感想・評価

アバター(2009年製作の映画)
4.0
2009年に公開されたジェームズ・キャメロン監督によるアメリカとイギリスの合作映画。162分の長さだが、展開があり、飽きさせない出来。ただ、世界興行収入が歴代1位を記録するほどに、内容に特別なものは、現在視聴するとないという印象(公開時は、3D映像の先駆けの映画であった)。題名のアバターはインド神話などで「(神や仏の)化身」の意味に使われ、特にヒンズー教の三大神のひとりヴィシュヌ神が、クリシュナ(『バガヴァッド・ギーター』を含む叙事詩『マハーバーラタ』などに登場)などいくつかの化身になっているのが有名。本作を汎神論的要素があり、『バガヴァッド・ギーター』のメッセージが込められているとする評価もあるが、私が見た印象では、とくに、そのようなことはなく、東洋思想の影響は感じられなかった。監督は、当時アメリカが参戦していた戦争に対する批判を込めたとしている。確かに、軍事力に任せて、弱小な他国に介入していった近現代のアメリカの姿勢を、この映画で感じる視聴者も多いのではと思われる。一方、この映画の「ダンス・ウィズ・ウルブス」との類似性を指摘している解説があるが、私も同意見で、アメリカの白人が、ネイティブ・アメリカン(インディアン)である北アメリカ大陸の先住民を武力で制圧し大量殺戮していった歴史を、そのまま舞台を異星に変えたような印象であった。この映画に登場する先住民の自然に対する親しみもネイティブ・アメリカンのそれを想起させるものである。結局、武力で制圧されてしまったネイティブ・アメリカンの人々の悲劇をそのまま再現しているような映画の後半は悲壮感があり、メッセージ性は強い。実際、歴史ではジェノサイドといってよい大量虐殺による白人側の一方的な勝利に終わったことを考えると、映画のラスト・シーンもさわやかなものとしては、なかなか受け取れない。主役のサム・ワーシントンは、車椅子の軍人というユニークな設定、これを支えるのがシガニー・ウィーバー演じる博士で、取り巻きには軍側の横暴に反旗をひるがえす”男っぽい”女軍人のミシェル・ロドリゲスらのチームメンバーは魅力的。ワーシントンの相手役演じるゾーイ・サルダナは、常に異星人のメイクではあるが女性らしいヒロインを好演。一方、敵役の軍人のトップであるスティーヴン・ラングは、強く傲慢なアメリカを象徴するような悪役を迫力の演技。
荒野の狼

荒野の狼