踊る猫

隠された記憶の踊る猫のレビュー・感想・評価

隠された記憶(2005年製作の映画)
4.4
怖い……スジの整理からボンクラな私はデヴィッド・リンチ『ロスト・ハイウェイ』的なものを想像していたのだが、この怖さは思いつく限りでは(私の不勉強がここで祟って来るのだが)なによりも黒沢清氏と似ているように思われる。残虐な場面は二箇所しかないのだけれど、心理的にどんどんこちらを追い詰めて行くという巧みさにその共通性を感じたのだ。もちろん両者には重大な違いがあるが(黒沢氏のオカルト臭さがハネケには見当たらないこと、等々)、それについて語り始めると長ったらしくなるので控える。語弊のある言い方を敢えてすればこの映画はミステリではなく、サスペンスでもあるようで広く括れば立派な「ホラー映画」なのではないか。冒頭の長回しとロングショットに仕掛けられた「信頼出来ない語り手」の存在を感じてからは(予告編を観ていなかったもので……)、あとはもう追い詰められっぱなしだった。ネタを割りかねない禁断の領域にギリギリで触れればラストの並ならぬ緊張感を備えたロングショットと長回しは、この映画の犯人が実は誰でも良いのだ(誰でもあり得るのだ)という、悪意がフラットに広まっているという瀰漫こそがこの世界の「真実」なのだという事実を象徴しているのではないだろうか?
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