めしいらず

暗殺の森のめしいらずのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
4.5
ベルトルッチとストラーロによる完璧な映像設計に尽きる。それは時に物語や登場人物への興味を凌駕してしまうほど私たちの意識を捕らえてしまう。印象的な建築や彫像。光と影と陰。白と黒。シンメトリー。アングル。画面の奥行き。強調されたそれらはまるでデ・キリコの絵画をそのまま映像に置き換えたように不思議な哀愁と美しさを湛えている。響く靴音。黄昏時の青い空。女同士の官能的なタンゴ。クールな美貌のサンダ。己の妻と恩師の妻を、ファシズムと反ファシズムを秤にかけて日和見に取捨選択する主人公の卑劣。それは恩師が予言した通りの態度なのであって、己の主義をその時々の旗色で容易に翻せるような根も芯もない彼の性向なのだ。しかしファシズムが隆盛なら加担し、衰退すれば糾弾し始めた民衆だって彼と同じこと。人の意志などあってないような不確かなもの。主人公においては己の中にあって認めたくない同性愛嗜好を糊塗する方便としての結婚でありファシズム傾倒だったのだろう。あまりに凄絶な暗殺シーン。彼は愛を囁いた女の危機にも扉を閉ざす男だった。ファシズムが衰退した戦争末期。少年期に殺害した筈の男との再会に主人公はトラウマを触発され、またもや反射的に自己保身に走り、盲目の友を売るが如くに公衆の面前でファシストと罵倒する。彼は最後まで二つの選択肢の間を揺れ続ける。後味の悪いラストの余韻が尾を引く。
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