お豆さん

暗殺の森のお豆さんのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
4.0
己というものを持たぬ主人公が、時流に乗じて「普通」を追い求めたが故に他人を不幸に巻き込む物語。アルベルト・モラヴィアによる『孤独な青年』を原作にしており、原題は小説・映画共に”Il Conformista(体制順応主義者)”。『暗殺の森』というサスペンス感のある日本語タイトルと、作品全体の演劇的な演出と詩的な映像美のおかげでロマンチックなイメージだったが、実は優柔不断で自己中心的な男のぐだぐだ物語なのだった。戦前・戦後とで「体制」が大きく変化したイタリア社会そのものがマルチェッロという男に象徴化されているのだろうが、その滑稽さが耽美的な映像によってかき消されてしまったような気がして、私の中では消化しきれないまま見終わってしまったので、イタリア近現代史を勉強して、ちゃんと原作を読んでから見直したい。

ひとつひとつのシーンはとても美しい。戦前はファシズム建築の荘厳でミニマルな美しさ、ムッソリーニ体制の崩壊後は荒廃した古代遺跡の哀愁をそそる美しさ、中盤では盲目的に人生を楽しむかのようなパリのデカダンな美しさ。もう少し、ベルトルッチがどういう映画監督なのか知りたくなった。
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