フラハティ

暗殺の森のフラハティのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
4.4
『暗殺の森』の出来事は、暗く閉ざされた男の人生そのものである。


アルベルト・モラヴィアの小説『孤独な青年』の映画化。
ベルトルッチの代表作として名高い本作は、日本においてドミニク・サンダを有名にさせた。


男は何故にファシストとなったのか。
暗く閉ざされた過去に、人生の道筋を決められた。
何故自分は“普通の人生”を歩むことができなかったのだろう。
この時代に普通でいることは、ファシストでいることなのだ。

子どもの頃いじめられ、家庭環境にも影を落としている(ような描写はないが、現在の両親の姿から推測できる)、望んでいなかった環境によって生まれたトラウマ。

初見時はそこまでだったが、再鑑賞にてバチバチに良さが伝わった。
マルチェロは過去のトラウマから逃れるように、現実と対峙していた。
だが本心には空虚さが芽生えており、「なぜこんな行動をとった?」という問いに、彼は「私と過去から逃れるため」という答えを出すはず。
彼は、この世の“普通の人生”を望んでおり、ゲイ(ってよりバイの可能性のほうが高い)である自分や、隠したい過去によって生じた、マイノリティである自分の存在に言い知れない不安を感じた。
そしてマジョリティとして生きていこうと決めた。
自分の本心に背くとしても。


本当の愛というものに出会った瞬間、彼は生きる意味を感じた。

自分の意思とは反対に、“普通の人生”を望むあまりに選んできた、本意ではない選択肢。
ファシズムがブッ壊れようがどうでもよくて、本当の自分を偽るために選んできたものばかり。
崩れていく瞬間はあっという間で、それまで築き上げてきた“普通の人生”は音を立てて崩れていく。


本作が評価されているのはカメラワークとか芸術性も含めてなんだろうけど、ガッチガチに狙った感がして、もう少し自然さが欲しい。
過去と現在の入れ込みの複雑さが分かりづらさを助長してるような気もするなぁ。
その反面、名シーンでもあるダンスシーンや暗殺の森のシーンは最高に好きなので、相殺ってことで。
ラストシーンの余韻も、彼の今までの人生を考えると深く突き刺さる。

ベルトルッチ三十歳前後の作品だって!
そりゃ天才って言われるよ。
フラハティ

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