netfilms

スペルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

スペル(2009年製作の映画)
3.6
 銀行の融資担当として働く行員のクリスティン・ブラウン(アリソン・ローマン)は、次期次長候補のアジア人に勝って次長へと昇進するため、支店長のジャックス(デヴィッド・ペイマー)に言われた通りに仕事を遂行していた。そんなある日、彼女のもとにガーナッシュ(ローナ・レイヴァー)と名乗るロマ風の老婆が現れる。年老いたこの老婆は30年住んでいる愛着のある家を追われようとしているが、クリスティンは自らの出世を意識し、老婆の3度目の不動産ローンの延長願いをキッパリと断る。それが悪夢の始まりだった。一見温厚そうな老婆だが彼女の様子はどこかおかしい。指にはめられた貴金属の鈍く怪しい光と、支店長室から振り返った時のたっぷり唾液のついた入れ歯の取り外し方。その時点でクリスティンは彼女の怪しさに気付くべきだったが、老婆と支店長との板挟みに遭った彼女は最終的に支店長の方針には逆らえない。それ自体は会社という組織に従事する人間の見解として何ら問題はないように思えるものの、どういうわけかその後老婆はクリスティンに執拗な嫌がらせを繰り返す。これは単なる嫌がらせとしては完全に度を越している。

 人間が持つ穴という穴の中で、口ほど大きく開かれたものはない。口は大きな食べ物を平らげたかと思えば、空気を飲み込んだり嘔吐したり正に自由自在で四次元ポケットのようだ。今作はその口が様々な禍々しい業を生む。入れ歯は老婆の恐怖の予兆で、その後も噛みついたり吐き出したり、嘔吐したり粘液を垂れ流したり余念がない(間違っても食事中の方は今作を観ないのが吉だ)。『死霊のはらわた』シリーズの様に野に放たれた死霊の群れは人間ども全員をターゲットにするのではなく、クリスティン個人を狙い撃ちするのが現代的だ。老婆は死にそうで死なない、死んでくれない。それがラミアの力なのかそれとも彼女自身の生命力なのかはわからないけれど、目に見えない呪いは終始クリスティアンを苦しめ続ける。『死霊のはらわたⅡ』のアッシュと呪いとのまるでエンドレス・ループのようなやとりのように呪いに終点はない。そこに無理矢理終わりを見つけようとした途端に悲劇は訪れるのだ。スピルバーグにはもはや『激突!』や『ジョーズ』のような映画は撮れないかもしれないが、サム・ライミは『スパイダーマン』3部作のような大作も撮れるし、いつでもこのような初期の自主映画作家時代のような映画も撮れる。サム・ライミの間口の広さと多彩さを感じた作品だ。
netfilms

netfilms