一人旅

ホームワークの一人旅のレビュー・感想・評価

ホームワーク(1989年製作の映画)
3.0
アッバス・キアロスタミ監督作。

宿題をできなかった子どもたちへの取材を通じて、イランの教育・家庭事情を浮かび上がらせたドキュメンタリー。
キアロスタミは元々ドキュメンタリー風の作品が多いが、本作は正真正銘のドキュメンタリーで、イランの小学校に通う子どもたちの本音を次々と引き出している。

イランのリアルな学校風景が新鮮だ。
「フセインは地獄に堕ちろ!」
「神よ、マホメットとその子孫を祝福せよ!」
「イスラムが勝利する!」

信仰心の薄い日本人にとってはなかなか刺激的な言葉の数々。これらをイランの小学校では、子どもたちを校庭に集めて大声で唱和させる。
だがその一方で、キアロスタミ監督の「好きなアニメは何?」という質問に対し、もじもじしながら「ピノキオが好き。」と多くの子どもたちが答える。幼い頃から宗教教育が徹底されていても、やはり子どもは子どもとしての一面も見せている。

そして明らかになるイランの大人の識字率の低さ。両親が文字を読めないと答える子どもたちが多く、そのため親は子どもに宿題を教えることができない。

罰と褒美。驚くことに、「罰って何?」の問いに対し、ほとんどの子どもが「ぶたれること。」と答える。逆に、「褒美は何か?」と聞かれても、褒美はおろか大人に褒められた体験が一度もない子どもが数多くいるのが分かる。
数多くの子どもたちへの取材風景を見て感じたのは、イランの教育が子どもたちに対し非常に抑圧的であることだ。イランの教育の中に、子どもの自由や子どもらしい無邪気さを許す空気は感じられない。社会、家庭、学校、つまり大人が決めたルールにただただ服従させているような印象を受ける。もちろんそれは本作製作当時のことであって、今現在ではイランの教育の在り方も以前と変わっている可能性もある。

また、子どもの親がイランの教育と、欧米そして日本の教育に関して言及している点も興味深い。イランの親が日本の教育をどう見ているのか。このような機会がないとなかなか知ることはできない。
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