シズヲ

チャイニーズ・ブッキーを殺した男のシズヲのレビュー・感想・評価

3.1
「謀殺地下老闆」ノワール風味の映画。莫大な借金を背負ったクラブ経営者が中国人胴元殺しを持ちかけられるというストーリーは単純明快だけど、冒頭から異様な演出に振り回される。説明的な描写をバッサリ切り捨てた話運びはまだ解るけど、明らかに間延びした場面の数々や役者の表情を執拗に捉え続ける接写の映像、敢えて被写体から視点を外したカメラワーク等で面食らう。その上で展開の解りやすい抑揚も皆無。映画の手触りはギャング物というより最早ドキュメンタリーに近い。

そんな作風に食い込んでくる夜の陰影と照明の渋いコントラストは印象に残るし、クラブの猥雑な煌めきも終始に渡って存在感を示す(クラブのショーは本当にシケてて全然面白くなさげなのが何だか凄い)。中国人暗殺の下りや倉庫での銃撃シーンのような静寂の緊張感も良い。ベン・ギャザラ演じる主人公にも奇妙な味があるし、終盤は何だかんだで「愛」へと着地する。楽屋での何気ない会話、舞台で挨拶したのち去り行く主人公、相変わらずシケてるショーの何とも言えぬ余韻。掘り下げも含めて本当に淡々と描かれたけど、主人公にとってストリップクラブは間違いなく居場所にして家族だった。

映画の「形式」から逸脱した本作のスタイルは正直言って全く好みではないし、外れるなら外れるで破壊的な方向性に振り切れてる方が好きではある。物語自体は明白なのに演出は意図的に不親切、平坦で地味なムードが延々と続き、展開に関しても脇に逸れるような冗長な場面が頻発してふらついている。このノリが最初から最後まで一貫して描かれる。ここまで来ると潔すぎるし、映画というよりは記録的な映像の中に「事件」が組み込まれているかのような感覚すら抱いてしまう。こういう取っ掛かりの無い作劇に二時間以上付き合うのは個人的に厳しいところがある。

でも現代の基準で見てもなお斬新さを感じる演出の手法や登場人物に向けられる独特の人情には確かな印象があるし、カルト的な支持を得ているのも解る。悠長な話運びとはいえ、こういった現実感を切り取ったような作風で描写の雑多さを排除して焦点をきっちり絞っていることにも実際唸らされる。劇的さを排除して極端に突き詰めた未知の世界観。
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