シズヲ

飢ゆるアメリカのシズヲのレビュー・感想・評価

飢ゆるアメリカ(1933年製作の映画)
3.9
名匠ウィリアム・A・ウェルマン監督によるプレコード期の作品。WW1を経験した男が戦後の後遺症や時代の情勢に翻弄されながら生きていく社会派ドラマ。

勲章を巡るすれ違いに始まり、戦争帰りの薬物依存、労働者の失業、警察による抑圧、無実の投獄、そして赤狩りなど、作中における受難は二転三転を繰り返す。特に“戦争からの帰還〜銀行勤務”と“工場勤務〜不況”の間には筋書き的に結構な断絶があるので、よくよく振り返ってみると結構困惑させられる。

それでも手際の良い話運びと有無を言わぬテンポ感が最後まで物語を引っ張り続けるので、終始失速せずに見ていられる。それでいて登場人物達の心情は端的に捉えていくので唸らされる。作中において主人公の行動は常に裏目に出続けるので、何とも言えぬ遣る瀬無さに溢れている。

前述した主人公の受難の数々は当時の社会の現実を容赦なく炙り出し、スクリーンを通じて戦後〜不況下のアメリカを批評していく。戦争の後遺症による薬物中毒、警察という公権力の暴力性など、後々の時代を先取りするような描写が散見されるのが実に鋭い。そしてロレッタ・ヤングが暴徒鎮圧の巻き添えになるシーンはヘイズ・コード施行以前であるが故の無慈悲さがある。

その上で本作は悲観や絶望のみに終わらず、主人公の行いにも社会の未来にも希望を見出して終幕へと向かうのが印象的。資本主義の構造によって金銭を稼いだ主人公が巡り巡って失業者達を救い、政治の今後にも明るい道筋を見出していくのが何だか興味深い。

ロレッタ・ヤングがとても可愛らしかっただけに、終盤の展開はだいぶビビらされた。そしてロバート・バラット演じる“共産主義者の発明家”は終始に渡って強烈な存在感を示していて面白い。大儲けした途端に宗旨替えをかます発明家、振り返ってみると資本主義も共産主義も平等に揶揄しているので面白い。
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