テイアム

ダンサー・イン・ザ・ダークのテイアムのレビュー・感想・評価

5.0
ラストについては、私は肯定派です。
一般的に物語はハッピーエンドが好まれるのだろうけど、観客の支持する人物が観客の望む結末をもって幸せになったとして、そんな予定調和的なお話だけが良い物語(映画)になり得るとは限らない。
実話ではないフィクションだからこそ、誤った結末をもって本当に訴えたいことを私たちの脳裏に痛みと共に焼き付け、また能動的に考えさせることが出来る。たとえその結末が支持されなかったとして、問題提起としてフィクションは機能しているのではないか。
誰かが批判的な意見を持った時点で、もはやこの作品の一部になっているに等しく、作者の意図は達成されている筈だ。

口当たりの良い綺麗事ばかりを並べ、批判する余地のないおためごかしの教訓を垂れる多くの作品に、私は今まで何を感じてきただろう。
誰もアナーキストになりたい訳ではない。しかし批判する事が許されないような美しいだけの作品にしか価値を見出すことが許されないのなら、それは自由な表現とは言えない。私は、この作品はアートを含む多くの“解釈”を巡る問題をはじめとして、意義ある問題提起をした大切な映画だと思っています。

比較的健全な考え方をするなら、あの終わり方でショックを受けたり、涙を流したりするのは、それまでにセルマの純粋な気持ちに心を打たれ、周囲の裏切りに憤りを抱いた証として当然の反応だと思うし、物語の中で示される様々な登場人物の質すべき誤りに気付いているからだと思って良いと思う。

ラストの衝撃ばかりに話が向けられがちですが、映像と音楽性の美しさについては言うに及ばず。
機械音や列車の音が規則的にリズムを刻み始めた時、鮮やかな色合いととともに始まる色鮮やかで活気と愛情に満ち満ちたミュージカルシーンには何度も心を打たれ、セルマが幸せそうな表情であればある程、涙を誘います。
目が見えない事を問いただされ
『見るべきものがあるの?』
と返してから始まる「I've seen it all」は作品の主題曲として観客の感情を強力に惹き付ける力を持っており、この映画で本当に美しく描かれていたのは、物語が進むに連れて歌声に彩りを増していくセルマの心そのものでした。

どの世代が観ても必ず賛否を呼び、またどちらの評価も総じて振り切れている。このような作品こそ、次代に引き継いでいくべき名作だと私は思う。