はまだ

ダンサー・イン・ザ・ダークのはまだのレビュー・感想・評価

4.4
ここまで暗くて重い映画に鮮やかなミュージカルが合わさった映画は初めてです。
この映画、賛否両論で特に否のほうが目立ちます。この映画を嫌う人の多くは鬱だからと言うかもしれないがそれだけではないと思う。もちろん鬱ではあるが、それだけで片付けていい映画ではないかなと。

まず、この映画が受け入れにくい点として、自分も思ったことだが、主人公のセルマが一見頭が足りないのか?と感じる点があると思います。セルマは息子のためを思って手術代を稼ぐ母親なのだが、母親というよりは大好きなオモチャを直したい女の子のようにしか感じないんですよね。周りとの人間関係も仲良しごっこにしか見えないし、計画性や想像力のなさに悲しくなってきます。周囲の盲目の人への接し方というのがそういう人間を生み出しているのかもしれないなあと。
特にミュージカルのシーンにもそういう幼稚さや愚かさを感じます。幼稚で愚かだからこそ、彼女はなにかがあると頭のなかの妄想に逃げます。それしか彼女にはなかったのかもしれない、だからこそ、件の殺人につながってしまったのでしょう。

もう一度言いますが、そういう彼女を生んでしまったのは周りの障害者への優しさ、接し方だと思います。"優しさ"の種類を考えさせてくれる映画だと感じました。

もうひとつ、なんと言っても素晴らしいのはミュージカルのシーンですよね。真っ暗な映画の内容と対比するように眩しくて明るいミュージカル。明るければ明るいほどなんとも普段の彼女の辛さを表しているようで何とも言えない気分になります。特に「最後から2番目の歌」。あれはミュージカルだったのでしょうか。本当に歌っていたのだろうと個人的には思います。それまではミュージカルで表現されていた彼女の気持ちが、初めて叫びと歌になって形になっていて涙なしではみられない場面でした。

最後に、処刑の前にめがねを渡されるシーンがありました。あれにより息子は手術できたという安心感が生まれましたが果たして本当に手術はうまくいったのでしょうか。この話の流れ的にはそれすらも失敗していそうで…。

たぶんまたいつか観たときは違った感情で観られると思います。それが映画のいいところ。自分が親になったとき、子供への愛を知ったときに観てみようと思います。ぼくは好きですこの映画。