ずいぶん前にパートナーと話をしたことがあった。
「ダンサーインザダークって映画知ってる?みるとすっごく気持ちが沈むんだって…」
ええ。映画を見れば分かるのです。ミュージカルをこよなく愛し舞台役者でもあるビョーク演じるセルバの運命をたどる物語。
苦しいシーンもありながら、突然ミュージカルとなって役者がみんな踊り出すシーンだってある。音にリズムに歌だって。でも、それでも…。
たとえどんなシーンだろうと、この映画に流れる時間のすべてには、どういうわけか、重さがあるようなのです。
あえてドキュメンタリーのようにカメラを安定させないように使っているからなのか、いつだって第三者であるカメラの視点は、もはや自分の視点なのではないかとも錯覚させられてしまうのです。
決して俯瞰してみることなどできない。それほどに引き込まれる。
ビョークの演技は、真に迫る。
現実から一気に空想の世界へと旅立つときの、あの表情。とても狂気的ともとれるし、どこか、「あんな風になれたら…」と思わずにもいられない。
不遇に不遇を重ねるセルバ、どうみてもすべてが敵で救いようがない。しかし、唯一の救いであった、心の支えであったジーンの運命を打ち砕こうと、
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
そして、美しき声とともに
ラストシーンを迎える。
美しき一人の母であり失明という運命を背負う女の「人間」をみて、ぼくはどうしても、暗い気持ちだけではいられない場所にいる。
I’m living in the dark.
But, there is All things.
She knows that.