あーさん

ダンサー・イン・ザ・ダークのあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

先延ばしにするのはやめよう!シリーズ 第2弾その3

先の2作品でたっぷり関西の風に吹かれ英気を養ったので、次は長めのもの・重いものを観ていこうと思って選んだ今作。
Filmarks内の賛否両論を横目に見ながら、鬱映画との触れ込みもあり、気になりつつもなかなか手に取る勇気が出なかった。

が、、
これは劇場で観ていたら、間違いなくしばらく席から立ち上がれなかっただろう。。

そのくらい衝撃的だった!!



何がすごいって、お話としてはとても悲しいのに、時々挟み込まれるミュージカルシーンが最高に楽しいので、まるで2つの映画を同時に観ているような気持ちになる。

舞台は60年代のアメリカ。
セルマ(ビョーク)は、チェコからの移民で一見地味な工場勤めのシングルマザーなのだけれど、歌っている時の彼女はまるで別人…。
でも、それはあくまでもセルマの空想の中の出来事なのであった。

その昔、好奇心からビョークの曲を聴いて精神的に不安定になりそうになったことがあり("I've Seen It All"のような曲)少々心配だったけれど、全くそんなことはなく圧倒的な歌とパフォーマンスに釘付けになってしまった。
大袈裟でなく、彼女が歌うと鳥肌が立った。
とにかく声と表情が素晴らしい。。

前半、セルマを何かと気にかけてくれる年上の同僚キャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)や家主であり隣人で息子の面倒を見てくれている夫婦ビルとリンダ(デヴィッド・モースとカーラ・シーモア)、セルマに想いを寄せるジェフ(ピーター・ストーメア)などが登場し、貧しくも逞しく生きる彼女の生活が描かれる。

セルマはミュージカルが好きで、サウンドオブミュージックのマリアの役をやることになっているのだが、練習風景を見ていると様子が少し変だ。。
その後、本人は隠していたが彼女がどんどん視力を失っていく遺伝性の病気であることがわかる。

そんな折、隣人のビルから家庭内の悩みを聞かされるセルマだったのだが、それが全ての不幸の始まりだった。。

中盤まではこれが鬱映画なのか?よくわからなかったが、ボタンを掛け違えてからの怒涛の展開、、
何故そうなってしまったのか?
どうすれば良かったのか?

そんなことは、誰にもわからない。

でも、セルマが頑なに守ろうとしているものは、母親である私にはよくわかった。

正しいとか正しくないとか、映画の中で起こっていることに文句を言うのはちょっと違うんじゃないかと常々思っているのだけれど、今作を観てその思いは更に強くなった。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の"メッセージ"を観てからというもの、"人生はもうすでに決まっている"という新しい価値観を手に入れた私は、もう少しどうにかならなかったのか、、という感情は、人生においてなるべく早く捨てなければならないと思うようになった。そういう時間は無駄なんだと気づいたのだ。受け入れる、全てを受け入れることが大切。この歳だから気付けたのかもしれない価値観。
そうは言っても人間だから、あの時こうしていたらとかどうしても色々考えてしまうものなのだが。。
だから、今作の理不尽な展開に"あいつに腹が立って仕方ない"と言う方がいて当然と思うけれど、人の弱さとか善意とか、一筋縄ではいかないのが人間であり、人生なんだと思う。
どんでん返しのラストであったなら、胸がすく思いを味わえただろう。
でも、監督はそうしなかった。
(それどころか、もっと悲惨な結末を用意していたらしい。。ビョークがそれを嫌がって実現しなかったが。)

ラストシーンの取り乱すビョークの渾身の演技、、泣けて泣けて仕方なかった。。
これはカンヌでパルム・ドール、女優賞も納得!(他にもゴールデングローブ賞、アカデミー賞歌曲賞ノミネート等)
本当に全編素晴らしいのだけれど、特にラストは鬼気迫るものがあったなぁ。(ビョークが撮影現場からいなくなった、というエピソードも理解できる!)

物わかりの良い刑務官ブレンダ(アキカウリスマキ作品御用達のカティ・オウティネン似のシオバン・ファロン)が大好き!
音を頼りにセルマを歩かせるシーンでは、涙腺崩壊。。

"ロシュフォールの恋人たち"で大ファンになったカトリーヌ・ドヌーヴが工場で歌い踊るシーンでは、何とも言えず胸がいっぱいになって、感動で涙が止まらなくなった。。とても嬉しそうに演じていて、観ている方も楽しい気分に♪
工場の機械音とか電車の音とか、そこから派生する音楽がまた堪らない。

法廷シーンで机の上に乗って歌い踊るおじいちゃんは誰だろう?と思ったら、"キャバレー"のMC役ジョエル・グレイ!?びっくらこいたー!
これまたすごい、タップダンス、出たよ!
この場面も好き。

改めて、キャストが素晴らしい。


敢えて、私はセルマに、
"あなたは幸せだったの?"と問うてみたい。

きっと彼女は"幸せだったわ"と答えるはずだ。

ラストにキャシーがセルマに手渡すあるものから、私達も息子ジーンの未来が明るいことを知る。。
素晴らしい演出!

何かあるごとにいつも周りが助けてくれたけれど、ここではそれは叶わない。
空想の中への逃避でない音楽なしの心の底からの歌、、セルマは初めて現実から逃げなかったのかもしれない。

エンディングの"New World" がまた体の奥にじんじんくる。。
ビョークの音楽の才能よ!


鬱映画なんかではなく、人生讃歌。
もっと早く観るべきだった。



*サントラ購入決定😊
"I've Seen It All"をサントラではビョークとRadioheadのトム・ヨークがデュエットしているらしい♪
早く聴きたい。。



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なんと、、これだけ大絶賛のレビューを書いてから、監督がビョークにセクハラしていたらしいという記事を見つけ。。
トリアー、お前もか!との思いで、本当に残念です😥

トリアー作品、次はないかもしれません💦
あーさん

あーさん